愛媛県新居浜市の民家で一家3人が刺殺された事件で、殺人容疑で逮捕された住所不定、無職の河野智容疑者(54)が約3週間前に民家へ押しかけた後、再び乗用車で家の前を複数回通行したとみられることが、関係者への取材で判明した。事件は13日で発生から1カ月。県警には約2年前から相談が寄せられていたが悲劇を防げず、保健所など関係機関との連携にも課題を残した。
河野容疑者は10月13日夕、岩田友義さん(80)方で、友義さんと妻アイ子さん(80)、三男健一さん(51)を刃物で突き刺し、殺害した疑いが持たれている。
近く鑑定留置請求
河野容疑者は健一さんの元同僚で、事件当時は車で寝泊まりする生活だったという。容疑を認め、「電磁波攻撃を受けた」などと供述。捜査当局は近く鑑定留置を請求し、刑事責任能力の有無を調べる見通しだ。
「警察に言って何とかしてもらっていたら、こんなことにはならなかったかもしれない」。近所に住む女性は悔やむ。
女性によると、事件前の9月下旬ごろ、河野容疑者の車が自宅前を複数回通ったとアイ子さんから聞いた。アイ子さんは不安がっていたが、自宅に来たわけではないため、警察への通報や相談はしなかったという。別の女性も河野容疑者の車を目撃したと証言した。
その数日前の9月23日。河野容疑者は「電磁波攻撃をやめろ」と岩田さん方に押しかけた。通報で駆け付けた新居浜署員は、河野容疑者に「言いがかりをつけないように」と注意。家族には「再度、家に押しかけられたら署に連絡するように」と伝えていた。
県警や保健所の連携に課題
河野容疑者は2019年7月~20年8月に計4回、「電磁波を当てられる」などと県警に相談。健一さんも19年9月と11月、河野容疑者への対応を相談した。
精神保健福祉法では、精神疾患のため自分や他人を傷つける恐れのある人を警察などが通報した場合、都道府県や政令市の判断で強制的に入院させる「措置入院」などを定めている。
しかし、県警は当時、これには該当しないと判断。相談内容について計5回、県の保健所に情報提供する対応にとどめた。保健所も、本人や家族から相談がなかったとして河野容疑者には接触しなかった。
中村時広・県知事は「判断は非常に難しかった。法に基づく警察からの通報も、容疑者や家族からの申し出もなかったので、措置入院に踏み切れなかった」と話し、対応の難しさをにじませた。
兵庫県洲本市で15年、近所の男女5人を刺殺したとして、殺人罪などで無期懲役が確定した男性(47)を巡っては、関係機関の情報共有が問題になった。男性は精神障害による措置入院歴があったが、治療は14年7月で途絶え、保健所は転居先を把握していなかった。警察は事件前、被害者の家族から繰り返し相談を受け、パトロールを強化したが事件は防げなかった。
山口県立大の水藤昌彦教授(司法福祉論)は「警察や保健所が無理に関わることは人権侵害につながる恐れもあり、効果的な対策があったとは言いづらい。車上生活になると支援につながることは難しく、その前の段階で予防的介入ができていれば違ったかもしれない」と指摘している。【斉藤朋恵】