沖縄県石垣市は今年9月3日、尖閣諸島に字名を刻んだ「標柱」を設置するため、当時の菅義偉政権に上陸を申請したが、2週間でスピード却下された。岸田文雄首相も10月12日の衆院代表質問で、「総合的に勘案した結果、上陸を認めない」と述べ、前政権の方針を踏襲した。
政府の決定を「弱腰」「無策」と非難するのは簡単だ。実際、石垣市民として私もそう感じる部分はある。
だが、即時の上陸がかなわない以上、現時点では、地元が「尖閣諸島の実効支配を強化せよ」と声を上げ続けることに意義がある。政府にプレッシャーをかけ続けることが、結局は中国の覇権的行動を抑止することにもつながるからだ。
政府も本音では、地元の盛り上がりを望んでいると信じたい。政府には地元の声を中国に対する「戦略的なカード」として使い、相手の行動をエスカレートさせない「したたかさ」を望む。
もちろん、政府が尖閣を守るポーズだけ示せばいいのではない。いずれは必ず市民が上陸し、自らの手で標柱設置を実現させる。要はタイミングの問題だけだと理解している。
尖閣周辺海域では、中国海警局の艦船が「領海パトロール」と称し、4隻体制で常時尖閣を監視している。周辺に出漁する日本漁船を追尾し、操業を妨害する行為も日常化している。
緊張状態は、2012年の日本政府(民主党政権)による尖閣国有化以来、もう10年近くも続く。
業腹ではあるが、中国の姿勢にも「さすが」と思えるところはある。尖閣を確実に侵奪するため、10年、20年という長期的なスパンで物事を考えられることだ。政権交代を考慮する必要がない一党独裁体制ならではの強みである。
逆に言えば、中国共産党政権が続く限り、尖閣を抱える沖縄県民は危険にさらされ続ける。県民が平和や基地負担の軽減を本気で求めるのであれば、県民の総意として求めるべきことは究極的に1つしかない。中国の政権交代である。
これを他国への内政干渉と誤解すべきではない。県民自身の生命財産が懸かった問題として政府や国際社会に訴えるべきだ。
しかし現在、沖縄主要メディアで県民の「総意」と喧伝されているものは「米軍普天間飛行場の辺野古移設反対」である。
辺野古移設の是非だけが沖縄の未来にとって本質的な問題ではない。先の衆院選こそ様相を異にしていたが、近年の沖縄の選挙は「辺野古」一色だった。そんな選挙はいびつだ。
地元の声は大事である。県民には一部メディアの短絡的な報道に惑わされることなく、それこそ中国的な長期的視野で安全保障問題を熟考してほしい。
■仲新城誠(なかしんじょう・まこと) 1973年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、99年に地方紙「八重山日報社」に入社。2010年、同社編集長に就任。現在、同社編集主幹。同県のメディアが、イデオロギー色の強い報道を続けるなか、現場主義の中立的な取材・報道を心がけている。著書に『「軍神」を忘れた沖縄』(閣文社)、『翁長知事と沖縄メディア 「反日・親中」タッグの暴走』(産経新聞出版)、『偏向の沖縄で「第三の新聞」を発行する』(同)など。