中国、韓国も夫婦別姓を認めているのに…日本が世界の潮流から取り残される根本原因

※本稿は、池上彰『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』(大和書房)の一部を再編集したものです。
2015年と21年、最高裁判所は2度にわたって、民法の夫婦同姓を定めた規定について、「合憲」であるとの判断を示しています。憲法には違反していないということです。
ただし、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」としてその是非を国会にあずける形になっています。つまり、いまの規定は憲法違反ではないが、夫婦別姓を実現したければ国会で、そういう法律を作りなさい、と宣言したわけです。
選択的夫婦別姓については、法務省の法制審議会によって幾度となく答申されていますが、いまだ与党からの法案の提出に至っていません。その最大の理由は自民党の保守派議員の反対によるもので、彼らは「家族の一体感が損なわれる」「子の姓の安定性がなくなる」と言っています。要は、家制度の崩壊につながるから、ということなのですが、夫婦が別姓を選択したからといって家族がバラバラになったりするでしょうか。
安倍元首相の「秘蔵っ子」と呼ばれ、防衛大臣を務めた稲田朋美議員は、以前は夫婦別姓に反対していました。ところが賛成を表明した途端、保守議員の支持団体である「日本会議」は距離を置くようになり、稲田議員は神道政治連盟の国会議員団体の事務局長も更迭されました。
2021年には、自民党の国会議員有志50人が、選択的夫婦別姓制度に賛同する地方議員に対し、慎重な検討を求める文書を送っていたことが発覚しました。この有志には高市早苗、片山さつき、丸川珠代といった女性の閣僚経験者も名を連ねています。つまり自民党の保守派として後ろ盾を失わないためにも、「夫婦別姓」に反対しようという意図が見えます。
こういった保守政治をとりまく古い意識と環境のために、なかなか前進できないでいるのが現状です。
海外ではほとんどの国が夫婦別姓を認め、結婚時に姓を選択できるようになっています。欧米にはファーストネーム(名)とラストネーム(姓)の間にミドルネームをつける習慣があります。ミドルネームは洗礼名や祖先の名前が多いのですが、女性の場合旧姓をミドルネームとして残すこともできます。現在は別姓が認められているため、夫の姓か自分の姓か、あるいはミドルネームとして両方を名乗ることが可能になっています。
アジアでは、中国や韓国が夫婦別姓になっています。しかしこれは、女性の立場を考えて導入された制度ではありません。どちらも歴史的に「男の家」制度が顕著だった国で、女性は結婚しても「男の家」の戸籍に入れてもらえなかったんですね。女性が家系に連なることを拒まれた結果夫婦別姓となり、そのまま現在の制度になっています。
日本に先んじているようにも見えますが、私に言わせれば「一周遅れのトップランナー」です。ただそれでも、この問題において、日本より前にいることは間違いないでしょう。
よくタレントが「入籍会見」などと結婚の報告をしますが、あれは間違いです。入籍というのは、基本は夫の戸籍に入ること。戦前の言い方です。現在は結婚と同時に夫婦で新しい籍をつくるわけですから、入籍ではなく、「新しい戸籍をつくりました」と言うべきところです。
そのとき、夫でも妻でも、本来はどちらの姓を名乗ってもいい法律になっています。でも大半が夫の姓を名乗るので、結果的に女性が不便を強いられる事態になっています。
過去の世論調査においても「家」が重視された時代は夫婦別姓に反対する意見のほうが多かったのですが、最近では賛成が圧倒的に多く、反対派は24%ほどにとどまっています。「男女共同参画基本計画」なるものを政府が示している以上、国民の意見を聞き、選択的夫婦別姓の議論を前進させるべきではないでしょうか。
同性婚も日本では夫婦別姓と同様に、「家制度」が尾を引いているといえるでしょう。結婚は親が決めるものであり、家系を絶やさないために男女がするもの。そしてここにはLGBTQに対する大きな偏見と差別が存在していました。
戦後になり、憲法によって自由な結婚が保障されるようになりました。日本国憲法第24条は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」とあります。従来の解釈では、「両性」とは男性と女性のことであるから、男女同士以外の結婚は認められないということになっています。
近年、世界的にLGBTQなどのセクシャルマイノリティの人権を守る運動が高まり、日本の憲法学者の間でも、議論されるようになっています。
憲法学者の木村草太氏は、この条文は親の同意などが求められた旧民法に対し、両当事者の意思を尊重する意味で「両性」という言葉を用いたのであって、同性婚を禁止したものではないと述べています。本人同士で結婚を決めていいんだよ、という趣旨でできた条文なんだから、「両性」は男同士でも女同士でもいい。そういう解釈は可能だということです。
一方で、「両性」はあくまでも男と女であるから、同性婚を認めるには、憲法を変えなくてはならない、という学者もいます。
国として議論が進まないなか、パートナーシップ制度を導入する自治体が増えています。
同性パートナーシップ証明制度は、2015に東京都の渋谷区と世田谷区でスタートし、2021年7月までに、全国で110の自治体が採用しています。基本的には同性のパートナーが自治体に書類を提出し、それに対する証明書が与えられて、異性のカップルと同等の権利が認められるのです。
例えば、カップルのどちらかが入院して「家族以外は面会できません」となった場合、パートナーである公的な証明があれば、面会が許されたりします。それ以外にも、公営住宅の入居が認められたりなど、実質的な不利益を被らないようにするのが目的です。
しかし、このパートナーシップ制度には、法的拘束力はありません。法律婚ではありませんから、配偶者控除は適用されませんし、遺族年金も適用対象外です。さらには、共同での親権を持つこともできません。
パートナーシップ制度が全国に広がれば、同性婚を認めなくてもいいだろう、という声もありますが、この制度はあくまでも、性的マイノリティの人権を守るための第一歩であることを理解しなくてはなりません。
2015年、アメリカの連邦最高裁判所は、同性婚を認める判断を示しました。これにより、現在アメリカでは、同性婚が可能になっています。ところが、これを「とんでもないことだ」と思っている人も多くいます。その一人がトランプ前大統領で、その支持者の多くも同性婚に反対でした。
2020年9月、連邦最高裁判所のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が亡くなりました。性差別を許さないリベラルな判事として名をはせていましたが、大統領選挙の1カ月半前にこの世を去りました。するとトランプ大統領はすかさず、同性婚や妊娠中絶に批判的なエイミー・コニー・バレット判事を最高裁判事に指名。共和党が多数の議会上院がこれを承認しました。これにより、今後同性婚をめぐる裁判が起きた場合、はたしてそれを認めるかどうかが注目されています。
2020年の大統領選挙で民主党の候補に名乗りをあげた、ピート・ブティジェッジ元サウスベンド市長は同性愛者であることを公表しています。バイデン政権では運輸長官に指名され、アメリカ史上初の同性愛者を公表している閣僚となっています。
またアイスランドでは、女性のヨハンナ・シグルザルドッティル元首相が、女性作家のパートナーと結婚しています。さらにルクセンブルクのグザヴィエ・ベッテル首相は、ベルギー人のパートナーと一緒になりたいために、同性婚を認める法改正に積極的に協力し、改正法ができると真っ先に結婚しました。EU加盟国の首脳として初めての同性婚者となりました。
世界では、とりわけ先進国では、同性婚を認めるようになってきています。
2021年3月、三重県で、性的マイノリティの人への差別や偏見をなくし、安心して暮らせる社会をつくるための条例が県議会で可決されました。ここでは、個人の性的指向を本人の了解を得ずに暴露する「アウティング」の禁止が、条例としてはじめて盛り込まれました。さらには「カミングアウト」の強要も禁止しています。
パートナーシップ制度もあわせ、性的マイノリティの人権を守る動きは日本の各地で広がりつつありますが、まだ地方自治体の条例の段階です。法律として認めるために国が動くようになるのは、夫婦別姓の問題と同様に、国会に保守的な議員が多くいる限り、もう少し時間がかかりそうですね。
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(ジャーナリスト 池上 彰)