衝撃事件の核心 「マルチのカリスマ」650億円集めた錬金術

「マルチのカリスマ」と言われた男が逮捕された。無登録で仮想通貨(暗号資産)への投資を募っていたとして、金融商品取引法違反の疑いで、東京都世田谷区の会社役員、玉井暁容疑者(53)ら男女7人が警視庁に逮捕された。玉井容疑者らは巧みな話術を駆使し、冗談を交えながら軽快な語り口で勧誘を進めるセミナーを全国で展開。集めた金は約650億円にも上る。金利がほとんどつかない時代にどうやって出資者を信じさせたのか。
派手な生活アピール
「マンションがたったの80坪で250平米しかなくて、リビングは53畳しかないんです。子供たちがフットサルしかできません」
派手な花柄のジャケットに海外の高級ブランドのロゴが目立つインナー姿でセミナー参加者の前に立つ玉井容疑者。まるで自虐するような口ぶりで自身の自宅の豪華ぶりについて語っていた。
同じマンションには有名サッカー選手や俳優も住んでいるとし、「何を隠そう、20代から億万長者なんです」とにんまりとした表情を浮かべた。
自由で、派手な生活ぶりをさんざんアピールした後、セミナーの本題でもある話に言及した。
「投資でもない。預けるかどうかという感じ」
問題となった金融商品の「ジュビリーエース」。出資すれば、あたかもリスクがなく、絶対にもうかる商品と受け取れるように宣伝。玉井容疑者が〝自慢〟した派手な暮らしがすぐにでも手に入るかのような錯覚を起こさせるセミナーは終始、熱気に包まれていた。
マルチの手口
玉井容疑者らが全国で宣伝していたのはジュビリーエースや「ジェンコ」などの商品だ。いずれも海外に運営会社があるとされ、仮想通貨の取引所間の一時的な価格差で利益を出す「アービトラージ」を人工知能(AI)で行うシステムを用いるなどして利益を出し、出資者への高利回りをうたっていた。
それだけではなく、紹介した人が専用のサイトに登録したり、収益を上げたりすると、勧誘者が配当を得られるマルチ商法の手口も取り入れられていた。
勧誘者は「必ずもうかる」「月利10%」などと説明。勧誘された者がさらに別の者を誘うことで、出資者が全国で増加した。
玉井容疑者が「マルチのカリスマ」と言われるゆえんは、過去にもマルチ商法的手口で利益を得ていたからだ。健康ジュースなどを販売する「ネットワークビジネス」を手がけ、会員でトップの売り上げを上げていた。
会員制交流サイト(SNS)でも海外やリゾート地での写真を投稿し、豪遊生活をアピール。ただ、個人所得を申告せず約1億円を脱税したとして、東京国税局が所得税法違反罪で東京地検に刑事告発していた。
玉井容疑者らは最終的に約10万3千件の契約を結び、約650億円を集めたが、約1年前から出金トラブルに。昨年夏には出資者から契約をめぐる相談が警視庁に寄せられていた。
警視庁は玉井容疑者の自宅を捜索するなど捜査を進め、11月、玉井容疑者らを含む男女7人を金商法違反容疑で逮捕した。
出資は最終的にすべて仮想通貨で行われていたが、一部の勧誘者については出資者から現金で直接、多額の出資金を受け取っていたことも判明した。
さらに「マネーロンダリング(資金洗浄)が疑われるためだ」などと整合性が取れないような説明をした上で、領収書や契約書は発行しなかったという。資金の流れを不透明にして証拠を残さず、摘発や訴訟リスクを軽減する狙いがあったとみられる。
巧みに信用させ
出資者はなぜ、金利がほとんどつかないこの時代に、月利数%の高金利をうたう商品を信じてしまったのか。
出資者の40代男性は知人らから勧誘を受け、パソコンで仮想通貨の取引がリアルタイムで映し出され、システムが自動で利益を出す様子を見せられ、信用してしまったという。また、当初は知人に現金への交換を要請すると、応じていたことからさらに商品に信頼を寄せてしまった。
一方で、「日本での金融ライセンスを取っていなかった」などの理由で出金が停止され、別の金融商品への出資先を変えたがその商品も出金停止に。出資額は3千万円を超えていた。
男性は現在、玉井容疑者らを相手取り民事訴訟を起こしており、「出資金を返してほしいし、(警視庁に)全容を解明してほしい」と訴えている。
投資詐欺に詳しい杉山雅浩弁護士は男性の弁護人を務めるほか、別の出資者の民事訴訟の準備も進めている。杉山弁護士は「年利がほとんどつかない時代に『月利20%』などのおいしい話は経済的合理性を欠いている。簡単にお金を預けないように気を付けてほしい」と注意を呼び掛けている。(宮野佳幸、吉沢智美、根本和哉)