岸田文雄政権の外交姿勢に不信感が高まっている。欧米諸国が、中国当局によるウイグルや香港での人権弾圧を受けて、北京冬季五輪の「外交的ボイコット」を検討するなか、政界屈指の「親中派」とされる林芳正外相が、中国の王毅国務委員兼外相による訪中招待を公表し、前向きに反応したのだ。そもそも、中国は日本への軍事的圧力を強めており、米国との同盟関係を重視する自民党外交部会などから強い反発も出ている。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が、林氏の「外交的失態」と、瓦解(がかい)し始めた岸田政権の「米中二股外交」を厳しく指弾した。 ◇ 先週のコラムで、私は「日本が米国と中国の双方にいい顔をする『二股外交』を展開し、同盟国である米国の信頼を損なう懸念が出てきた」と書いた。残念ながら、懸念は現実になりつつある。 林氏は21日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」や、BS朝日の「激論!クロスファイア」で、中国から訪中要請されたことを明らかにした。林氏は18日、中国の王毅外相と電話会談した。外務省はその際、中国からの訪中打診を公表していなかったが、大臣自ら語ってしまった。 林氏は訪中するかどうか明言を避け、訪中する場合も日程は未定としたが、BS朝日で「招請を受けたので調整はしていく」「米中両方と話ができるのが日本の強み」などと前のめり気味に番組で語った。 これを聞いて、中国は「林外相は必ず来る」と確信し、小躍りして喜んだに違いない。事務方が伏せていた話を、大臣本人がテレビで公表したからには、来ないわけがない。 公表していなければ、行かなかったところで、波風は立たない。だが、公表した後で行かなかったら、大臣が意図して「中国の顔に泥を塗った」も同然になるからだ。 林氏は「ここは政治家として売り出す絶好のチャンス」と思ったのかもしれない。だが、米国は「日本は二股をかける気だ」と思ったに違いない。「米中両方と話ができる」という発言には、そんな思惑がにじみ出ている。 この発言は「日本が米中対立の仲介役になる」という意欲表明のように聞こえる。そうだとすれば、まさしく二股以外の何物でもない。対立している一方に肩入れして、仲介役は務まらないからだ。 林氏は勘違いしているのではないか。 米中両方と話ができても、それは「日本の強み」でも何でもない。オンライン上とはいえ、米中のトップ同士、ジョー・バイデン大統領と、習近平国家主席は16日、すでに直接会談している。そこに日本が割って入ったところで、米国から見れば「余計なお世話」ではないか。
岸田文雄政権の外交姿勢に不信感が高まっている。欧米諸国が、中国当局によるウイグルや香港での人権弾圧を受けて、北京冬季五輪の「外交的ボイコット」を検討するなか、政界屈指の「親中派」とされる林芳正外相が、中国の王毅国務委員兼外相による訪中招待を公表し、前向きに反応したのだ。そもそも、中国は日本への軍事的圧力を強めており、米国との同盟関係を重視する自民党外交部会などから強い反発も出ている。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が、林氏の「外交的失態」と、瓦解(がかい)し始めた岸田政権の「米中二股外交」を厳しく指弾した。
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先週のコラムで、私は「日本が米国と中国の双方にいい顔をする『二股外交』を展開し、同盟国である米国の信頼を損なう懸念が出てきた」と書いた。残念ながら、懸念は現実になりつつある。
林氏は21日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」や、BS朝日の「激論!クロスファイア」で、中国から訪中要請されたことを明らかにした。林氏は18日、中国の王毅外相と電話会談した。外務省はその際、中国からの訪中打診を公表していなかったが、大臣自ら語ってしまった。
林氏は訪中するかどうか明言を避け、訪中する場合も日程は未定としたが、BS朝日で「招請を受けたので調整はしていく」「米中両方と話ができるのが日本の強み」などと前のめり気味に番組で語った。
これを聞いて、中国は「林外相は必ず来る」と確信し、小躍りして喜んだに違いない。事務方が伏せていた話を、大臣本人がテレビで公表したからには、来ないわけがない。
公表していなければ、行かなかったところで、波風は立たない。だが、公表した後で行かなかったら、大臣が意図して「中国の顔に泥を塗った」も同然になるからだ。
林氏は「ここは政治家として売り出す絶好のチャンス」と思ったのかもしれない。だが、米国は「日本は二股をかける気だ」と思ったに違いない。「米中両方と話ができる」という発言には、そんな思惑がにじみ出ている。
この発言は「日本が米中対立の仲介役になる」という意欲表明のように聞こえる。そうだとすれば、まさしく二股以外の何物でもない。対立している一方に肩入れして、仲介役は務まらないからだ。
林氏は勘違いしているのではないか。
米中両方と話ができても、それは「日本の強み」でも何でもない。オンライン上とはいえ、米中のトップ同士、ジョー・バイデン大統領と、習近平国家主席は16日、すでに直接会談している。そこに日本が割って入ったところで、米国から見れば「余計なお世話」ではないか。