兵庫県稲美町で住宅が全焼し、小学生の兄弟が死亡した放火事件で、殺人と現住建造物等放火の疑いで逮捕された伯父の松尾留与(とめよ)容疑者(51)が「(兄弟の)両親が嫌いだった」という趣旨の供述をしていることが捜査関係者への取材で判明した。事件後は電車を使って大阪へ移動していた。1日で逮捕から1週間。県警は詳しい動機の解明を進める。
全焼した木造2階建て住宅には、死亡した小学6年の松尾侑城(ゆうき)さん(12)と、1年の眞輝(まさき)さん(7)、40代の母と50代の父、母の兄にあたる松尾容疑者が5人で暮らしていた。
家族の知人らによると、松尾容疑者は幼少時から現場の住宅で暮らしていたが、成人後は地元の衣料販売会社などで勤務した後、大阪へ転居した。数年前に無職となり、稲美町に戻ってこの住宅で生活していたが、他の家族と会話を交わすことは少なかった。
松尾容疑者は兄弟の母から仕事に就くよう助言され、「働きたくない。財産、土地を譲るから生活保護を受けたい」と話したという。捜査関係者によると、十数年前に大阪市で生活保護を受給していた。
事件当日の11月19日午後11時半ごろ、兄弟の父は仕事が終わった母を迎えに車で外出。松尾容疑者は「(両親の)外出を待って、ガソリンを使って火を付けた」と供述している。
当時、小学生の兄弟は2階で就寝中。松尾容疑者は1階の自室にあった布団などに放火したとみられる。県警は、放火で2人が死んでも構わないという「未必の故意」があったとみている。
事件後の足取りも、徐々に分かってきた。松尾容疑者は午後11時36~42分ごろに放火し、徒歩で現場を離れたとされる。防犯カメラの映像などから20日未明、住宅から約1キロ離れたコンビニエンスストアで飲食物などを購入。その後、約10キロ歩き、JR明石駅から電車に乗って大阪駅で下車したとみられる。
24日午後1時ごろ、大阪市北区の扇町公園のベンチに座っているのを捜査員が見つけ、職務質問や任意同行に素直に応じたという。県警は松尾容疑者が同公園で路上生活をした経験があることから、土地勘があったとみている。
27、28の両日、兵庫県加古川市で兄弟の通夜と葬儀が営まれた。参列者によると、ひつぎの上には兄弟がファンだった阪神タイガースのユニホームやバットが置かれ、すすり泣く同級生の姿もあったという。「生前、タイガースの応援歌を2人で歌っていた。元気で優しい子たちだった。天国でも手をたずさえて野球を楽しんでもらいたい」という両親のあいさつを式場の職員が代読した。兄弟の友人から手紙を渡されると、母は涙ぐんでいたという。両親は代理人弁護士を通じ、「今は2人の冥福を祈って静かに見送りたい」と報道各社にコメントを寄せた。【村田愛、巽賢司、後藤奈緒】