「既報のネタでも【独自】って?」「スクープとは違うの?」《読売新聞の【独自】って何だ問題》新聞表記の“素朴な疑問”を聞いてみた!

新聞読み比べの当コラムですが、今回は「新聞の素朴な疑問」をお送りします。
というのも最近気になっているのが「独自」という表記なのです。皆さんも目にしたことはないでしょうか? ネット配信の記事でタイトルの最初に【独自】とついたものを。
ここでしか読めない記事も確かにあるのですが、「独自(=スクープ)」だと期待して読んでみたら「これ、他ですでに読んだぞ」というものもある。一体どういう基準で出しているのだろう?
「読売新聞オンライン」の「独自」記事
「独自」表記をよく見かけるのは「読売新聞オンライン」です。読売のキャラというか印象を言うと政府・自民党の情報がとにかく早い。たとえば2014年の総選挙前の記事(新聞版)を紹介しよう。
『増税先送りなら解散』(読売新聞2014年11月9日)
他紙の見出しは「解散か」だったのに読売だけが「解散」と言い切っていた。なぜかと言えば、
《安倍首相が、来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを先送りする場合、今国会で衆院解散・総選挙に踏み切る方向で検討していることが8日、分かった。》
検討していることが「分かった」のである。政権に食い込んでいるのが分かる。それは今も続く。最近の「独自」記事をいくつかあげてみよう。
【独自】イベント人数の上限撤廃へ、ワクチン・検査証明活用で定員100%認める(読売新聞オンライン11月12日)
【独自】無症状でも無料でPCR検査…「第6波」に備え、軽症者の待機施設も準備へ(読売新聞オンライン11月8日)
【独自】眞子さまと小室圭さん、年内に結婚…儀式は行わない方向で調整(読売新聞オンライン9月1日)
これらの「独自」が報じられたあとに他紙が後追いをする。もっとわかりやすい例でいうと「国民栄誉賞」ネタは読売が一番早い。国民栄誉賞はその時々の政府が決めるから政権情報に強い読売の独壇場と言っていい。
囲碁将棋の”スクープ”も政治部発
将棋の羽生善治と囲碁の井山裕太が受賞したときは、
『羽生・井山 国民栄誉賞』(2017年12月13日朝刊)と朝刊でどこよりも早く書いていた。
他紙はこの報道のあとも「政府検討」という表現だったのに読売はキッパリ。それもそのはず、翌日の朝刊に内幕がすべて書いてあった。
《羽生、井山両氏への国民栄誉賞の同時授与は、棋界の盛り上がりを願う政府が、1年半以上前から温めてきた構想だった。》
《「想定より早く機が熟した」(政府関係者)という。》
「政府関係者」から聞いているのだ。囲碁将棋だけに文化部マターかと思いきや、この“スクープ”も政治部発なのだろう。やはり政府・自民党の動向に強い読売だと思わせる。
「文春オンライン」「週刊文春」が報じた内容と同じ「独自」記事
そんな特徴があるので読売の「独自」記事はよくチェックしているのですが、最近とにかく「独自」が多いのだ。しかも冒頭にも書いたようにこれって他がすでに報じていたよな? という“独自記事”もある。たとえばこれ。
【独自】月刊誌報道に校長とPTA会長「ありもしないこと書かれた」、いじめ否定文書を配布…中2凍死(読売新聞オンライン・11月12日)
旭川のいじめ事件についての「独自」記事だが、5月に『文春オンライン』が報じた内容と同じだった。
「謂れのない誹謗中傷に、驚きと悔しさを禁じ得ません」Y中学校校長がイジメ否定の文書を全保護者に配っていた (「文春オンライン」2021/05/20配信)
似たような例は他にもある。
【独自】テレビ局員の自殺「長時間労働が主な原因」、遺族に報告…パワハラ行為も(読売新聞オンライン9月29日)
これは「週刊文春」(9月2日号)の記事と同じ。私は「独自」の意味がよくわからなくて一人でザワザワしていたのだが、文春のデジタル担当者もどうやら同じことを思っていたようで ツイッター上でつぶやいていた 。
読者センターへ電話して聞いてみると…?
では直接聞いてみよう。読売新聞の「東京本社読者センター」に電話をしてみた。
電話に出たのは年配らしきおじさん。記事を読んでいて質問があるのですがと切り出すと「どうぞ、どうぞ」。前のめりになった様子が電話越しでもわかる。この積極的な感じは読者の質問に答える「先生」のような役割の方なのだろうか。※記者ではないと言っていた。
こちらが知りたいこととして、
(1)「独自」とは「スクープ」という意味なのですか? (2)他社で既報の場合、どういう意味で「独自」なのですか? (3)記者が独自と思えば独自なのでしょうか?
すると(1)の答えは「独自=スクープである」と。おお、そういう解釈でいいんだやはり。「編集局の判断」だという。
でも他で読んだ記事も見かけるのですと質問したら((2))、
「以前の事実に何か新しい事実を付けた場合」も【独自】とつけると教えてくれた。
面白かったのは(3)の質問だ。「記者が独自と思えば独自なのですか」と尋ねたら、
「(他の媒体で書かれていても)気づいていないで【独自】とする場合もある」という。
え、気づいていない? そんなこともあるの?
「具体的な記事について調べてもらえませんか」と尋ねたら…
では具体的に聞いてみたいと思い、先述した「中学校長がイジメ否定の文書を配っていた」(文春オンライン5月)と、読売「いじめ否定文書を配布」(11月12日)を例に出してみた。
この場合の「独自」という意味は「以前の事実に何か新しい事実を付けた場合」なのか「記者が気づいていない場合」なのか。調べてもらえませんかと尋ねてみた。
すると「これはどういうお問い合わせですか」「何かの正式な問い合わせですか」とちょっと態度が硬化。いや、私は読者としてほんとにその違いを知りたいだけなのですが…。
なぜ【独自】表記が乱発しているのか
ここまでをまとめてみる。
読売側も「独自=スクープの認識」ということがわかった。しかし他の媒体で書かれていても気づいていない場合もあるという。こうなるとスクープとはなんぞや…とその「重さ」についても考えてしまう。
なぜ【独自】表記が乱発しているのか。ここでひとつの推測ができる。記事のタイトルに【独自】とつくのはオンラインの記事だ。つまりアクセス数がよいからなのだろうか。電話でその点を尋ねたら「うーーん」とちょっと困ったようだった。
読者センターのおじさんとの会話だけでもよかったのだが、念のために文春オンライン編集部からも私の質問と同様のものを読売新聞社に送ってもらうことにした。
すると回答がきた。
読売社内からも【独自】表記に異論が出ていた
〈 読売新聞オンラインに掲載している記事の見出しの冒頭にある【独自】の表記は、編集局の判断に基づくもので、当初は独自の取材に基づくスクープや調査報道の記事を対象としていました。その後、発表された事案などでも、それまでの取材で他社にない情報が含まれる場合、【独自】表記をつけるようになりましたが、こうした運用には、社内から異論が出たため、現在は、独自取材 によるスクープや調査報道などを対象とする当初の形に戻しています。 〉
ざっくりいうと「もともとはスクープ記事につけていたけど→その後は記事に新要素が入っていれば既出のテーマでもつけていた→でも内部からも批判があり、スクープ記事のみに」という流れらしい。私の素朴な疑問はあながち的外れではなかったようだ。この機会に聞けてよかった。
これまでなんとなく多く感じていた【独自】記事だけど、読売社内からも異論が出ていたことを知れたのは収穫だった。
今回の当コラムはなかなかの「独自」ではないでしょうか。自分を褒めておきます。
さて、私にはまだ素朴な疑問があります。
東スポはUFOとか雪男とか他の新聞には載っていない独自記事を連発しているのに全然【独自】と打っていないのです。マイペースです。このへんの秘密もそのうち聞いてみたい。
(プチ鹿島/Webオリジナル(特集班))