所得税法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された日本大学理事長の田中英寿容疑者(74)が1日、理事長職を辞任した。5期13年に及ぶ長期体制は終わったが、理事会は田中容疑者を解任できず、責任追及もできていない。学内には「院政」や「返り咲き」への懸念が残る。
加藤直人学長が同日付で理事長を兼務することとなり、それ以外の30人以上の理事全員が辞表を出した。医学部付属板橋病院を巡る2つの背任事件の被害届提出もようやく決まった。
背任事件で大学に地検の家宅捜索が入ったのが9月だが、上層部の刷新を求める署名活動が始まるなど大学内で動きが出てきたのは、田中容疑者の逮捕後。同容疑者の権力の強さを物語る。
大学運営について、事実上、重要な決定がなされていたのは東京都杉並区にある田中容疑者の妻が経営するちゃんこ店だった。多くの大学幹部や出入り業者が顔を出したが、元教授は「田中理事長の前ではみんな直立不動だった」と明かす。
常務理事だった2005年には日大関連工事を受注した業者から現金を受け取った疑惑が浮上、特別調査委員会の中間報告書は「謝礼として3000万円を受け取ったという極めて濃厚な疑いが残る」と指摘したが、調査は道半ばで終わった。
14年には指定暴力団関係者との交際疑惑が報道されたが不問に付され、18年のアメリカンフットボール部の悪質タックル問題でも自身は表に出ることなく昨年9月に5選を果たした。
辞任を受けても、日大関係者は「田中容疑者が大学に返り咲く可能性もある。逮捕されているうちに、次の体制に道筋をつけたい」と表情は険しい。
田中容疑者は辞任理由を「理事長不在により業務に支障をきたす」と説明したという。逮捕容疑に関しても「現金を受け取っていない。脱税をしていない」と改めて否認している。
本人は「引退」ではなく「休場」のつもりかもしれない。