児童虐待の防止に取り組む民間団体が虐待を受けた経験のある男女30人を対象に行った聞き取り調査で、約半数が周囲の大人に相談していなかったことがわかった。「誰も助けてくれないと思った」などが理由で、子どもが声を上げる難しさが浮き彫りになった。専門家は「子どもがSOSを出しやすい環境を整える必要がある」と指摘している。(小泉朋子)
調査したのは、虐待防止に取り組むNPO法人「ひだまりの丘」(名古屋市)理事の
生川
(なるかわ) 真悟さん(32)らの研究グループ。生川さん自身も幼少期に実父から虐待を受けた経験があり、虐待の防止や早期発見にはどの段階から支援が必要かを研究するために企画した。
調査は昨年5~9月、虐待対応の専門知識のある社会福祉士らが、虐待によって児童養護施設に入所した経験のある人を中心に10~40歳代の男性10人、女性20人から聞き取りを行った。その結果を生川さんやNPO法人「ケア・センターやわらぎ」(東京)代表理事の石川治江さん(74)らが分析し、報告書にまとめた。
虐待の種別(複数回答)では、暴言などの心理的虐待と身体的虐待がそれぞれ22人と7割を超え、ネグレクト(育児放棄)12人、性的虐待3人と続いた。虐待が始まった年齢は、10歳未満が26人で最も多く、加害者は実父が10人、実母8人、実父母6人などだった。
調査では、16人(53%)が虐待を受けている最中に「家庭外の人に相談する意思がなかった」と回答した。理由は「自分の家庭が普通だと思っていた」が9人で最も多く、「誰も助けてくれないと思った」(3人)、「親に知られたくなかった」(2人)など。
小学生から16歳まで実父に暴力を振るわれていた20歳代の女性は、体の傷に気づいた友達が教員への相談を勧めてくれたが、「先生に言われると親に伝わり、もっと虐待がひどくなる」と口止めしたという。女性は調査に対して「誰も助けてくれず、この生活から逃げ出せないと諦めていた」と話した。
実母から身体的な虐待などを受けていた別の20歳代の女性は「たたかれるのが当たり前だったので、誰かに相談しようと思ったことがなかった」と回答した。
生川さんは「自分も父親からの暴力がひどくなると考え、周囲の大人に相談できなかった」と振り返り、「子どもが助けを求めやすい環境を整えることが必要だ」と話す。