《音声公開》「あなたが作業しなかったんじゃないですか」「馬鹿にしないでくださいよ」…コロナ禍での“副業詐欺” そのアコギな実態とは?

「消費者金融で200万円を借りさせられたのに、収益は50円だけ」 コロナ禍で激増する“副業詐欺”のリアル から続く
新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが急速に普及したことに伴い、自宅で空き時間に気軽にできる「副業」が広がりをみせている。
一方で、そうした副業を始める人のなかには、コロナ禍で職場を解雇となり収入を失った人や、失職にまではいたらなくとも勤務時間の短縮によって減少した収入を補おうとする切実なケースも多い。さらに定年退職後の老後の資金を少しでも蓄えようとする高齢者もいる。こうしたコロナ禍での困窮を理由に副業を始めたにもかかわらず、収益を得られず訴訟沙汰となっているケースもある。
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「かなりの収入が期待できる」「作業は3ステップ」
「スマホで稼げる口コミNo.1の副業アプリ」
「完全無料でレクチャーしています」
「無料アプリで稼ぎ放題」
「稼ぎ方はこんなにカンタン 無料のアプリを選んで 無料アプリを簡単インストール すぐに報酬発生」
副業サイト運営会社「T-cloud(ティークラウド)」のウェブサイト『サイドプランナー』では、このようなうたい文句で副業に関心を持つ人を勧誘している。
利用者がLINEアカウントに登録して「スタートアップガイド」と称する数千円の電子書籍を購入すると、以下のようなメッセージが送信される。
「【お仕事の内容】誰でもできる3ステップ (1)無料アプリを選ぶ!(2)無料アプリをダウンロード(3)報酬を受け取る ダウンロードした時点で報酬が発生」「たったこれだけの作業で、10万円以上稼げるお仕事は他にありません。サイドプランナーの会員様の9割は副業未経験の方ですが、難しい操作がないので、かなり稼いでいます」
「かなりの収入が期待できる」「作業は3ステップ」といったうたい文句や手順は、「 #1 」で紹介した「woods(ウッズ)」が運営していた副業サイトとも似通った内容となっている。そして、woods同様、その言葉を信じて副業を始めた約20人が、「まったく収入を得られない」としてT-cloudを相手に約900万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴している。
「サイドプランナー」の副業システムは、概ね以下のような手順だ。
利用者が電子書籍を購入し、初期費用を払うと担当者から電話がある。担当者からは有料の「サポートプラン」が提示される。最も低価格のプランは「ビギナー」コースで、サポート日数25日、販売価格8万円、想定総収益12万円となっている。
続いて「レギュラー」「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」などとランクアップ。最高ランクは「プレミアム」の名称で、サポート日数90日、販売価格180万円、想定総収益250万円が提示されている。
金銭の話になると高圧的な口調に
ここに1本の音声データがある。
T-cloudの利用者のひとりが、サポート担当者との電話のやり取りの一部を録音していたものだ。利用者は実際に副業を始めてみたものの、想定通りの収益はとても得られなかった。頼みのサポートを受けようとしても「被告会社からはおざなりのサポートとは呼べないようなサポートしかされず、時には罵倒され、精神的な苦痛を受けた」と強調している。

サポート担当者「作業していないのにおカネなんて稼げるわけないじゃないですか! 何を言っているんですか。人のことをバカにするのもいい加減にしてくださいよ! バカにしてますよね」
利用者「ええちょっと、何かガーと言われると頭の中が…」
サポ担「いやバカにしてますよ」
利用者「僕の中では何て言うか、サポート…」
このように、「作業していないのに、カネを稼げるわけがない」などと高圧的な口調で迫られたという。当初は物腰柔らかく対応していた担当者が、金銭の話になったとたんに高圧的になったそうだ。
激減した収入を補填できるならとはじめたが…
こういった被害を受けた利用者は他にもいる。
首都圏で化粧品販売のアルバイトをしている20代の女性は、コロナ禍を受けて職場から仕事を減らされてしまい、収入も激減。「今年2月ごろに副業サイトを見つけて、収入を補填できるなら『やってみよう』とはじめた」という。
申請するとすぐに、物腰が柔らかく、受け答えも丁寧な男性が電話をかけてきたという。被害女性が振り返る。
「副業の内容や、サポートプランの説明などをしてもらいました。会話を続けるうちに自分が好きなアイドルのポップミュージックの話で盛り上がったんです。そこで『始めてもよいかな』と考えました」
「好きな曲でも今は聞いていると悲しくて涙が止まらない」
当初は「おカネがさほどない」と話したというが、担当者からは「もし本気でやる気があるなら、消費者金融で借りたほうがいい」と言われ2社から50万円ずつ、計100万円を借り、100万円以上を支払ったという。
無料アプリを登録して、ネット上の15個のゲームをダウンロードした。その後、サポートの電話がかかってきたが、勧誘の時の電話の男性とは違い高圧的だったために、「やめたい」と申し出ると、今度は「ブログを書く仕事をしよう」と提案された。ところが話を聞いていくと「まずは50個、ブログを書いて」といった無理難題をつきつけられ、実質的に実現不可能なため、1カ月後にはやめたという。100万円の返金にも応じてもらえなかった。その後は、サイドプランナーで副業を始めたことについて後悔の日々を過ごしている。
「今ではやらなければよかったと思います。自分がこのような被害に遭うとは思ってもおらず、情けないです。『どうにもならない』と分かって以降、何もやる気がなくなってしまいました。ずっと暗い気持ちが続いています。
勧誘の時に電話でアイドルグループの話で盛り上がったことを思い出してしまい、好きな曲でも今は聞いていると悲しくて涙が止まらないことがあります。とにかく全額返してほしい。情けないのもありますが、それ以上に怒りの気持ちが大きいです」
「ブログを100個書いてください」どう考えても無理なことを要求
関西地方でバスの運転手をしていた50代の男性は、コロナ禍で外国人観光客がいなくなったために仕事がなくなり、会社を解雇されてしまった。その後、今年2月ごろにサイトを知り、藁にも縋る思いで60万円を支払って始めたという。
実際にはじまると、クレジットカードを作らされ、商品の転売などを指示された。だが、収入が得られないとわかると、前出の20代女性同様に「ブログを書いてください。アクセスがあれば収入となります」と言われた。
被害男性は悔しそうに回顧する。
「勧誘では『分からないことはサポート電話ですぐに対応します』などと言っていたんです。最初の人は口がうまいし、口調も柔らかなんです。しかし、その後のサポート電話は口調も高圧的で『ブログを100個書いてください』とか、どう考えても無理なことを要求してくる。しかも電話は2回ほどしかなく、内容は納得のできるものではありませんでした」
定年後に何かすることを見つけたかった
首都圏で教員として長年にわたり勤めてきて、定年退職後の老後の資金のために始めた60代の女性は、4月に50万円を支払うプランで副業を始めた。
「品物についておすすめ記事を書いて、リンクに貼ると広告収入があるという話でした。いきなり文章を書くのは難しいので、ネットの記事を紹介してくれて、すぐに1日に1万円ほどの収入があると聞かされました。
素人でも付きっ切りでサポートしてもらえると考え、技術を身につければサポートがなくとも稼げると思った。でも、サポートは数回しかなく、ほとんど役に立ちませんでした。(定年後に)何かすることを見つけたかったのもあります。自宅でスマホの作業だけで稼げるというので、最初に投資をしても月に何万円か入れば回収できると思いました。何か始めるには投資が必要だろう、学習しなければ…という気持ちがあった」
ただ、今となっては、「浅はかだった。反省している」と後悔の念はぬぐえない。
詐欺容疑に問われる可能性も考えられる
T-cloudを相手に訴訟を起こしている原告側代理人の中山雅雄弁護士は、「コロナ禍で経済的に困っている人からカネを取っているところがひどい」と批判。副業サイト関係で困っている人たちには、「警察が動くかどうか、事件化は別として、(T-cloudとwoodsについて)情報提供という意味でも警察にも相談してほしい」としている。
T-cloudの代理人の弁護士に訴訟についての見解を求めたが、期日までに回答はなかった。
woodsとT-cloudの双方に特徴的なのが「サポート」と称して副業を手助けするとしている点だ。しかし、多くの利用者は「まったく役に立たなかった」と証言している。そのシステムが「詐欺的だ」として訴訟へとつながっている。
こうした点について、警察当局の捜査幹部は、「サポートの内容がまったく役に立たず、利用者たちが支払った費用に対する対価性がなければ、双方の会社は詐欺容疑に問われる可能性も考えられる」と指摘している。別の捜査幹部は、「AI(人工知能)を使って副業の成果を評価するとしているが、事件化となるには実際にAIを利用していないなどの実態が明らかになるかどうかがポイントになりそうだ」としている。
(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))