犯罪最前線 ネットにも拡散 CA盗撮被害に法律の壁

電車内やトイレなどで無断で撮影する「盗撮」。被害がなくならない背景には、盗撮行為は刑法で規定されておらず、都道府県ごとに迷惑防止条例で取り締まっている実情がある。中でも悪質性が高まっているのが飛行機内の客室乗務員(CA)への盗撮だ。乗客と乗務員という立場や法律の壁も立ちはだかり、対応に苦慮。画像がインターネット上にさらされる被害もあり、深刻な問題となっている。
盗撮、注意できず
「盗撮されたことは何度もある」
数年前まである航空会社で客室乗務員として働いていた関東地方に住む20代の女性は、スマートフォンなどで無断で撮影しようとする乗客は多くいたと被害を吐露する。
撮影されたことに気づいた場合は注意していたが、常に客室乗務員としての華やかなイメージを崩さないよう会社から指示されていたため、「丁寧にお願いする程度が限界だった」という。
盗撮された画像や動画の消去を依頼することは難しく、「乗客の個人情報に触れることなのでなかなか言い出せなかった」と女性は話す。
同僚同士で盗撮する乗客の情報を共有したり、男性乗務員が搭乗していた場合は対応を頼んだりと可能な限り対策を講じていた。だが、離着陸の際にベルトを着用して動けなくなった隙を狙うなど、しつこく撮影してくる乗客は多かったという。
「注意すると逆に怒鳴られることもあった。強く言えなかったので、本当に嫌だった」
ネット上に流出
《CA 脚》などという文字とともにインターネット上には、飛行機内で盗撮されたとみられる客室乗務員の画像が大量に出回っている。脚だけを狙ったり、後姿を撮影したりするなど、機内での作業中、本人も気づかない間に撮影されたとみられる。
こうした機内での盗撮行為は、スマートフォンやSNSの普及で増加しているとみられ、「盗撮や無断撮影は客室乗務員に気づかれないように行われるため、行為や事実確認が難しい」(大手航空会社)という。
別の大手航空会社では、スティック状のカメラで乗務員を撮影しているのを別の乗務員が気づいて対応したといい、「お客さまから乗務員を撮影していたと教えていただくこともあった」と明かす。
航空会社などの労働組合でつくる航空連合が令和元年7月に行った機内の迷惑行為に関するアンケート(総回答数1623件)によると、機内で盗撮や無断撮影の被害にあったことが「ある」「断定できないが、あると思う」と答えた客室乗務員は6割に上った。
また、「ある」と回答した客室乗務員のうち、その場での画像の削除や警察への引き渡しなど、なんらかの対処ができたとする人は4割にとどまり、約6割が「対処することができなかった」と答えた。
法律の壁
機内での盗撮行為への対処や取り締まりが難しい背景には、撮影されたことに気づきにくいということのほかに、法律の壁やサービスとの折り合いなど複雑な背景が浮かび上がる。
日本では、盗撮行為は刑法で規定されておらず、都道府県ごとに迷惑防止条例で取り締まる。そのため、上空を飛ぶ飛行機内では、盗撮が行われた犯罪発生地点がどの都道府県で起きたものか特定するのが難しいという実情がある。
過去には飛行中の機内で客室乗務員のスカート内を盗撮したとして男が逮捕されたが、飛行中で場所が特定できないとして処分保留で釈放された事案もあった。
また、狭い機内で安全に気遣いながら、座っている客に立って対応する乗務員の目線の違いなどもあり、撮影に気づきにくい。さらに離着陸準備などで乗務員はベルトを着用した以降は立つことができないため、無断撮影の対応がすぐにできないなど、航空機内という特殊環境の事情もある。
大手航空会社は、閉鎖空間でのトラブルを避けたいという思いもあると明かし、「ほかのお客さまや社員に迷惑がかかる場合は遠慮していただたいているが、(画像の)削除までお願いすることは難しい」と対応の難しさを吐露する。
盗撮罪の創設求める
盗撮被害は相次いでいる。今年4月には、防犯カメラのない国会内のトイレで経済産業省職員の男が女性を盗撮する事件が発生。東京五輪をきっかけに女性アスリートが競技会場で性的な目的で撮影されたり、わいせつな加工が施された画像が拡散されたりする被害も問題となった。
電車内やトイレでの盗撮は後を絶たず、法整備を求める声は高まっている。刑法の性犯罪規定の在り方を検討する法制審議会での議論もスタート。盗撮に関しては、性的姿態の撮影や、撮影した画像などの提供行為を処罰する罪の新設、性的姿態の画像を没収・消去できる仕組みの導入などが検討されている。
警察は女性アスリートの性的な画像の拡散に関連して、名誉毀損(めいよきそん)罪や著作権法違反罪を適用し摘発している。性犯罪被害者支援に取り組む上谷さくら弁護士は、「警察が取り締まりに動き出したことは大きいが、刑罰としても重くはなく、盗撮行為自体をストレートに取り締まらなければ根本的な解決にはならない」と指摘。条例より処罰の重い刑法で取り締まれる「盗撮罪」の必要性を強調した上で、「社会に盗撮を許さないという認識を広めるべきだ」としている。(大渡美咲)