25人が犠牲になった大阪市北区曽根崎新地のビル放火殺人事件の現場からほど近くに、発達障害のある人の就労支援を行う施設がある。利用者には、出火したビル4階のクリニックに通う人が複数おり、中には事件発生時に居合わせて犠牲になった人もいた。施設の関係者はその死を悼む一方で、心のよりどころを失った利用者の今後を懸念している。
「本当に悲しくて悔しい。事件に巻き込まれた方のことを思うと、言葉が出ない」
就労支援団体「障害者ドットコム」(大阪市北区)の代表、川田祐一さん(49)は唇をかみしめた。
自身も発達障害があるという川田さんは、当事者の立場から利用者を福祉サービスにつなげて社会復帰を促す支援を行っている。施設には400人近くの鬱病やパニック障害などを抱える人が利用。クリニックは施設と300メートル足らずの距離にあり、通っていた利用者も複数いた。
事件が起きた17日午前、川田さんはいつものように施設内で業務にあたっていた。けたたましく鳴るサイレンから火災の発生を認識したが、まさか火元がクリニックであるとは思わなかった。やがて、ある利用者が巻き込まれたことを知り、愕然(がくぜん)とした。亡くなったのは、再就職を目指して努力を重ねるまじめな人だった。「せっかく頑張っていたのにな。怖かったやろうな」
ただ、悲しみに暮れてばかりはいられない。懸念しているのは、クリニックに通っていたほかの利用者たちの今後だ。「これからどうしようかと途方に暮れている利用者さんもいる。次のクリニックを早期に探すのは喫緊の課題だ」と話す。
川田さんによると、クリニックは利用者や同業者からの信頼が厚く、評判もよかったという。鬱病などで休職した患者らを対象に、事件当日に開かれていた集団治療「リワークプログラム」についても「社会復帰を目指す患者にとって効果的だった」と指摘する。
「患者にとってクリニックは、安心で安全な居場所だったはず。そんな場所でこんなむごいことがあってはならず、犯人を許すことはできない」
一方で、事件で殺人と放火の疑いがもたれている谷本盛雄容疑者(61)は、クリニックに通院していた。「何が引き金になったのか」と川田さんは首をかしげる。「福祉サービスを受けるなどして社会から孤立しなければ、今回のような事件にならなかったのではないか」。事件をきっかけに精神障害や発達障害に対する差別や偏見が広がらないかを危惧する。
川田さんは現場のビルの前に花束を手向け、誓いを立てた。今後は、発達障害や精神障害に対する偏見をなくすために、積極的に情報を発信していくつもりだ。
「二度とこんな悲しい事件が起こらないよう、頑張りますから。どうか、安らかに」(石橋明日佳)