25人が死亡した大阪市北区曽根崎新地のビル放火殺人事件で、現場となった「西梅田こころとからだのクリニック」には大阪府内だけで約600人の患者が通っていた。一人一人に寄り添う診察で、信頼の厚かった同クリニック。行き場をなくした患者たちの支援が課題となる中、電話相談窓口には悩みや不安を打ち明ける声が相次ぐ。心療内科は他の診療科に比べ医師と患者の結びつきが強い傾向にあり、専門家は早期のサポート体制の構築を求めている。
「病気以外のことでも、何でもアドバイスをくれた。先生のおかげで今、生かされていると思っている」。5年近く通院していた大阪市西淀川区の男性会社員(46)は、犠牲になった西澤弘太郎院長(49)への思いをこう話した。
クリニックに最後に通ったのは事件の4日前。「心の支えだった」西澤院長だけでなく、顔見知りのスタッフも巻き込まれ、「しばらく何も考えることができなかった」という。
今はこれからへの不安が募るばかりで、「(西澤)先生以上の先生に出会えないかもしれない。どう歩んでいけばいいのか」と吐露した。
電話相談200件
自治体もこうした患者へのケアに注力する。大阪府は20日、クリニックに通う患者らを対象とした電話相談窓口を設置。職場復帰のための集団治療「リワークプログラム」を実施している他の医療機関を紹介したり、心の悩みなどの相談に応じたりしている。
「どこに転院したらよいか」「薬がなくなりそうだ」。府によると、24日時点で計約200件の相談が寄せられた。「院長を信頼していたのでつらい」と涙ながらに電話をかけてくる人もいたという。
当初は1回線で対応していたが、数多くの相談が寄せられているとして、22日以降は2回線に増やした。担当者は「事件に関して、少しでも不安なことがあれば相談してほしい」と呼びかけている。
トラウマのケア必要
手を差し伸べる医療機関も出てきた。大阪市淀川区の「十三(じゅうそう)メンタルクリニック」では、西梅田こころとからだのクリニックに通院していた患者の相談や診察を24日までに十数件実施した。問い合わせも相次いでおり、加納圭祐院長は「最終的には数十人程度を受け入れることになるのではないか」と話す。
受け入れた患者のほとんどは、事件に強い衝撃を受けていたという。「相談相手が主治医しかいない人もおり、(心療内科は)他の診療科に比べて患者との結びつきが強い」と加納院長。西澤院長とは勉強会などで顔を合わせたことがあるといい、「情熱をもって患者さんと向き合い、慕われていた。微力だが受け皿になれたら」と前を向いた。
「信頼していた医師が事件で亡くなり、自分が巻き込まれていたかもしれないことに、大きなショックを受けている」。日本精神神経科診療所協会の三木和平会長は患者の心情をこう推しはかる。今後、治療やカウンセリングなどにより、事件のトラウマのケアも必要になってくると指摘。「患者が無料でカウンセリングを受けられるようにしたり、受け入れる診療所を手厚くサポートしたりしてほしい」と求めた。