北海道東・日高地方の太平洋沿岸で今秋発生した赤潮は、道内で過去に例を見ない大規模な被害をもたらした。収束に向かっているものの、漁場の回復までには何年もかかるとみられており、国や道などによる長期間の支援が不可欠だ。(長谷裕太)
「ウニがなくなってしまった」。釧路町の昆布森漁協うに漁業生産部会長の成田昇三さん(67)はそう嘆いた。同漁協のエゾバフンウニの漁獲量は前年比約9割減となり、変死したウニの死骸は海に流され、姿が見えなくなった。
同漁協は毎年、漁業利益の一部を積み立て、約8000万円を稚ウニの放流や痩せたウニの移植事業に充て、漁場の維持に努めてきた。ただ、今年は大幅な漁獲減で積み立てもままならず、来年の増殖活動が危ぶまれている。
ウニ漁師の大半は不漁などの損失を補償する漁業共済制度の対象外。「漁場を回復しようにもお金がない。このままではウニ漁の存続が危うい」と悲鳴を上げる。
赤潮は9月下旬に発生し、同時期にサケやウニの大量死が確認された。今月17日現在で、被害はサケ2万7900匹、ウニ2800トンに上り、ブリやクロダイ、タコ、ツブなどにも及んでいる。被害総額は81億9000万円で、その9割をウニ(73億6700万円)が占める。被害額が確定していない地域もあり、道は最終的に被害が総額170億円にまで膨れ上がる可能性があるとみている。
赤潮を発生させたプランクトン「カレニア・セリフォルミス」は昨年、ロシア・カムチャツカ半島の海域でも確認されており、関連が指摘されているが、明確な原因は分かっていない。
カレニア・セリフォルミスに由来する赤潮被害は日本で初めてで、北海道大厚岸臨海実験所の伊佐田智規准教授(生物海洋学)は「赤潮が頻発する瀬戸内海に比べて広範囲で被害規模も大きい。様々な要因が考えられ、まずはデータを集めなければ原因も分からない」と話す。
道立総合研究機構は、カレニア・セリフォルミスの検出量が10月下旬以降に激減していることから「急速に収束に向かっている」としている。ただ、漁場の回復にはウニで3~4年、ツブでは7~8年かかるとも言われており、当面は従来の漁獲量は見込めない。
国は赤潮対策事業として15億円を今年度補正予算に計上し、道と市町村はこれとは別に約6億円の対策費を積み上げた。ウニの死骸除去や生き残ったウニの移植、稚ウニの購入費など、漁場回復に向けた支援を進め、発生原因の究明や早期発見の技術も開発する。被害状況を確認するため、道は独自に水深150メートル付近の海中の様子をカメラで確認する予定だ。
とはいえ、漁場が回復するまで、地域経済への影響は深刻だ。
鹿児島大水産学部の佐久間美明教授(水産経済学)は「漁業者の生活を支えるため、地元での就労支援などに着手すべきだ」と、漁場から人が離れるのを防ぐ手立ての重要性を訴える。
業績が悪化する漁協などには行政主導による新たな融資制度の創設も必要だとし、「港町は漁師だけでなく、加工生産、流通までが1セットで経済が成り立っている。幅広い支援がなければ地域の衰退を招く」と警告している。