「救済から外れる人が出る」 「黒い雨」指針改定合意に批判も

広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」被害を巡り、国と広島県・市が27日、救済拡大に向けた被爆者認定指針の改定で合意した。7月の広島高裁判決を受けた救済拡大が具体化することになるが、広島の当事者らからは「救済から外れる人が出てくる」と不安や批判も根強く、議論の対象外となった長崎からは憤りと失望がにじむ。
「新たな分断生む」広島の支援団体
広島県と広島市には、これまでに1300件を超える被爆者健康手帳の申請が寄せられている。「一定の疾病」を要件に加えた骨子案で最終決着し、認定されない人が出てくる可能性があり、支援団体などは「新たな分断を生む」と批判している。
10月に申請した広島市中区の栗田泰明さん(82)は、爆心地の北西約20キロの安野村(現広島県安芸太田町)で黒い雨を浴びた。これまで雨を浴びた体験は明かしてこなかったが、救済拡大方針を受けて申請を決意。ただ、数年前に肺がんを患ったものの治療を終え、経過観察中で、発病を要件とした骨子案では対象とならない可能性がある。「長い期間待ち、やっと申請できた。だけど、病歴や証言に基づいて認定してもらえないのなら、諦めざるを得ないかもしれない」とため息をついた。
また、雨に遭ったと認定される地域や対象者も不透明だ。7月の広島高裁判決で被爆者と認められた原告84人と「同じような事情」にあった人が対象だと骨子案ではしているが、詳細は今後の議論に委ねられる。同じく10月に申請した住田康雄さん(85)は爆心地から西に約30キロ離れた吉和村(現廿日市市)で雨を浴びたが、同村で雨を浴びた原告はいない。「でも、僕は実際に雨に降られた。その証言を通さないのはありえんと思う」と訴えた。
支援団体「原爆『黒い雨』被害者を支援する会」の竹森雅泰弁護士は「高裁判決を否定する内容で、到底容認できない」と疾病を前提とした現行制度から見直す必要性を指摘し、「援護から外れる人が出てきた場合、新たな訴訟も考えざるを得ない」と訴える。【小山美砂、根本佳奈】
「なぜ広島だけか」長崎の被爆体験者
被爆者認定指針の骨子案に、長崎の被爆体験者は含まれなかった。「なぜ広島だけなのか。長崎も早く救済してほしい」。原爆投下直後に国の指定区域外で原爆に遭い、黒い雨や灰を浴びたと証言する被爆体験者の今井ツタヱさん(90)=長崎市=は嘆く。
爆心地の東約10キロの矢上普賢岳で戦闘機燃料などに使う松ヤニの採取中に突然空が光り、爆風に吹き飛ばされた。やがて空は曇って暗くなり、黒い雨や灰がぱらぱらと降ってきたという。元々健康には自信があったが、その後、ぜんそくに苦しみ、家の中を歩くだけで息が上がるようになった。狭心症や胃の潰瘍なども患い、「原爆投下後に降った灰を吸い込んでしまったからではないか」と疑っている。
だが国から今井さんに被爆者健康手帳が交付されることはなく、同じく原爆に遭ったきょうだいとともに被爆体験者も被爆者と認定するよう求める集団訴訟の原告団に加わった。第2陣訴訟から参加した今井さんは2016年の長崎地裁判決でいったんは被爆者と認められたものの、18年の福岡高裁判決で一転、訴えが退けられた。
今井さんは、国の指定区域外で黒い雨に遭った原告全員を被爆者と認めた広島高裁判決に光を見いだし、国と広島県・市、長崎県・市との5者協議の結果に期待を寄せていたが「がっかりした。死ぬまで手帳はもらえんとやろか」とこぼした。【中山敦貴】