孤立した妊婦が匿名で出産できる事実上の「内密出産」制度を独自に導入している熊本市の慈恵病院は4日、2021年12月に10代の女性が制度の利用を希望して出産したと明らかにした。現状では国内初の内密出産事例になるとみられるが、病院は女性が翻意する可能性もあるとみている。
「女性は『病院で産めなければ赤ちゃんを一人で産んで、捨てていたかもしれない』と話していた。赤ちゃんや母親、その家族がつらい思いをする孤立出産は防がなくてはならない」。慈恵病院の蓮田健院長は記者会見で、内密出産を希望する女性を保護した理由をそう説明した。
病院が制度の参考にしたのがドイツの内密出産法だ。同法では、母親は仮名での出生登録が認められ、子供は16歳になれば母親の実名や住所などが記された証明書を閲覧できる。望まない妊娠をした女性と子供の双方の命を守るため2014年に施行された。
ただ、日本の場合はあくまでも慈恵病院独自の取り組みで、内密出産には生まれてくる子供の戸籍の取り扱いなど法的な課題が山積している。出生直後に遺棄されるなどした子は法律に基づき戸籍が作られ、慈恵病院の赤ちゃんポストに入れられた場合もこの扱いになる。だが、日本の法制度は病院で匿名で産むことを想定していない。
出生届が受理されて、戸籍が作られたとしても、生まれた子の「出自を知る権利」をどう保障するかも課題だ。熊本市の光安一美・子ども政策課長は「今回のケースについて厚生労働省や法務省などと情報共有している。現行法の中でどのように対応するのが母子にとって最善なのかを考え、今後の対応を検討したい」と述べた。【栗栖由喜】