岸田文雄首相は昨年8月、真っ先に自民党総裁選への出馬を表明し、「党役員任期1期1年、3期まで」として、権勢を誇っていた二階俊博幹事長の交代をぶち上げた。この一撃によって、菅義偉政権の足取りが乱れ、退陣に追い込まれた。岸田政権誕生の嚆矢(こうし=始まり)となった、まさに乾坤一擲の勝負手だった。
「飛べない男」「決断できない男」などと散々に言われた岸田首相だが、その本質は「剛」にして、生粋の「党人派」政治家である。政局を見極める勝負勘は、もともと持ち合わせていたものだろう。
首相就任後はいよいよその本領を発揮して、八方に目配りした人事で挙党体制を構築した。また、衆院選期日の前倒しを決断して、一気に選挙戦に勝利した。さらに、懸案の補正予算も、予定通りに年内に成立させた。派手さがないため気が付きにくいが、振り返ってみれば見事な手際である。
岸田首相のもう一つの強みは、「真面目な人柄」と「聞く力」である。
例えば、首相就任後の記者会見。幹事社が3点を質問しているにもかかわらず、「以上、2点についてお尋ねします」というと、メモを取っていた岸田首相は「3点ですね」と確認したうえで、丁寧にそれぞれの質問に答えた。この時から首相官邸クラブの記者の空気が好意的になった。
12月の臨時国会の答弁でも、低姿勢、誠実な印象を与えた。世論調査の支持率もじんわり上昇傾向だ。
とはいえ、岸田政権の政権基盤は依然として脆弱(ぜいじゃく)だ。
自民党内では、安倍晋三氏、麻生太郎氏、菅氏という首相経験者が隠然とした影響力を持ち、茂木敏充幹事長、森山裕氏といった新たな派閥領袖(りょうしゅう)も登場して混沌(こんとん)状態にある。
こうしたなか、官邸主導で強引に仕切っていくのはリスクが高い。とすれば、丁寧に議論を重ねながら、落としどころを探るしかない。北京冬季五輪の「外交的ボイコット」も、そうした流れの中の判断だったのだろう。「リーダーシップ欠如」と批判されたとしても、ここは耐えるしかない。
まずは、通常国会で来年度予算を年度内に成立させたうえで、7月の参院選に勝利することが至上命題となる。「岸田カラー」を本格的に出せるのは、参院選以降だろう。
菅政権の教訓を踏まえれば、総裁の任期切れが見えてくる前に早期の衆院解散・総選挙を探る展開となるのではないか。そこを乗り切れば長期政権が見えてくる。
「飛べない男」「決断できない男」と揶揄(やゆ)された岸田首相が勇躍する日は訪れるのか。今年前半が勝負となる。
■伊藤達美(いとう・たつみ) 政治評論家。1952年、秋田県生まれ。講談社などの取材記者を経て、独立。永田町取材三十数年。政界、政治家の表裏に精通する。著作に『東條家の言い分』『検証「国対政治」の功罪』など多数。『東條家の言い分』は、その後の靖国神社公式参拝論争に一石を投じた。