「蔵出しみかん」出荷へ 火事で貯蔵庫焼失、仲間の支えで再起

収穫したミカンを貯蔵庫で熟成させ、味をまろやかにする和歌山県海南市下津町特産の「蔵出しみかん」。15日から始まるその出荷を、特別な思いで迎える農家がいる。橘本地区の宮井幹雄さん(72)、憲司さん(43)父子だ。2021年1月、出荷を始めたばかりで、ミカンが山と積まれた大事な貯蔵庫を不慮の火災で失った。「焼け跡を見るだけで気分が落ち込んだ。ミカン作りを辞めたいと思った」(憲司さん)というどん底から、2人を立ち直らせたものとは――。【山口智】
火災は21年1月20日夕方に発生した。貯蔵庫は、傾斜地に住宅が密集する地区にある宮井さんの自宅前にあった。鉄骨2階建て延べ約240平方メートルが全焼し、中で保管していた約50トンのミカンも全て焼けた。20年は豊作年で、例年の1・5倍の収穫があった。庫内の蛍光灯の熱が備品に伝わり、引火したのが出火原因とみられるという。
火災により、鉄骨だけが残った状態になった貯蔵庫。一家は土壁を解体し、焼けたミカンを取り出す作業に追われた。丹精込めて栽培したものを廃棄する、やるせない仕事。そこに駆け付けてくれたのは、近所の住民や農家仲間だった。
「この道50年」という幹雄さん。ミカン農家は、祖父が苦労して段々畑を整備して以来の家業という。8年前には、長男の憲司さんも後を継ぐ決心をした。周囲が励ましてくれながらの解体作業。「自分はこの仕事しか知らない。幸い、ミカンの木は焼けていない」と幹雄さんは前を向き、すぐに再建に着手した。21年5月には新しい貯蔵庫が完成した。憲司さんは「地域の皆が助けてくれたおかげで、1年で出荷までこぎ着けられた」と感謝を込め、自慢のミカンを出荷する予定だ。
「蔵出しみかん」は「下津蔵出しみかんシステム」として、19年に日本農業遺産に認定されている。海南市下津町地域は、急傾斜地を利用した栽培による独特の景観で知られ、日本のミカン栽培発祥の地とされる。長年の試行錯誤で収穫直後のミカンを園地内の貯蔵庫で熟成し、絶妙な糖度と酸味のバランスをよくする技術を生み出したという。
JAながみねによると今季、「蔵出しみかん」の出荷は3月まで続き、出荷量は計2800トンを見込んでいる。