地方独立行政法人市立大津市民病院(大津市本宮)で、外科系の多くの医師が退職の意向を示している。原因について、医師らは理事長のパワーハラスメントと主張している。理事長は否定しているが、「取り返しがつかない」との声もある。市民、患者は気がかりで落ち着かない。地域医療で、安心をもたらすべき病院が市民の不安、心配の種になっている。ブラックジョークに他ならない。これまでの経緯をたどった。
問題が表面化したのは今月初めだった。
「大津市民病院 外科・消化器外科・乳腺外科で治療中の患者様へ」と題した文書が病院内で配布された。3科の医師9人の連名で、「退職しなければいけないこととなりました。当院院長・理事長・事務局長により決定された病院運営上の判断とのことです」と記されていた。3科の全医師9人(常勤8人、非常勤1人)が今年3月末~6月末にかけて退職するという内容だった。9人はいずれも京都大学外科学教室から派遣されている。
「しっかりしてほしい」
外科医側の対応はなく、派遣窓口の京都大学医学研究科も取材に対し、「コメント、回答は控える」とし、今後の会見予定もないという。
問題の原因は明確ではないが、今月15日に市民病院で開かれた同病院の北脇城理事長(66)らの会見で概要が判明した。
北脇理事長によると、年度初めの昨年4月から、外科のリーダーに対し、ヒアリングを実施。業績改善のための経営努力に関して相談していたという。
外科は、大腸がん、乳がんをはじめとしたがんや、ヘルニアの手術をする。収入では同科が全体の約10%を占めるという。
北脇理事長は「外科は大きい科で、しっかりしてもらわないといけない。だが、相談がかみ合わず、リーダーに経営改善の意思が認められないため、昨年9月17日、主体となるチームを京都府立医科大学に替えたらどうかといった。同意が得られなかったので、派遣元の京大外科学教室に相談するといった」という。
その後、市民病院は10月、12月、今年1月と3度にわたり外科学教室に医師の適正配置(リーダー交代)を依頼。今月14日になって、唐突に「医師の派遣はしない」と同教室の教授から電話があったという。
第三者委員会で検証
経営努力の相談が、医師の大量退職に発展したのは、「パワーハラスメントがあったから」だと外科医側は主張しているという。
「昨年9月17日のヒアリングで、退職を強要されたのはパワハラだ」とし、昨年9月22日、外科統括診療部長が市民病院内部統制推進室にパワハラを届け出た。内部検証の結果、「パワハラとして認められない」との結論が出た。しかし、外科医側の納得が得られず、市民病院は今月7日、第三者調査委員会を設置し、委員の弁護士2人に検証を依頼している。
会見で北脇理事長は「当該医師全員の退職を求めた事実はない」と強調していた。ただ、「主体となるチームの交替を言及した」「府立医大のチームに入れ替わったらどうかといった」「京大外科学教室に適正な(人事)配置をお願いした」などヒアリングでの発言を外科医側がパワハラと捉えたとしても不思議はない。
さらに、市民病院の脳神経外科医(5人)側からも同様にパワハラの訴えがあり、第三者委員会の検証対象となっている。
脳神経外科医5人も退職の意向を示しているとされるが、市民病院は「脳神経外科部門の責任者に確認したが、派遣元の京都大学医局の指示により人事異動が行われるとのことで、現時点では決まっていない」という。
「取り返しがつかない」
府立医大名誉教授の北脇理事長は、同大産婦人科学教授、同大付属病院病院長を経て令和3年4月に市民病院の理事長に就いた。
「取り返しのつかないことを(北脇理事長は)してしまった」
北脇理事長の同僚だった府立医大の関係者は今回の問題について、こう分析している。
北脇理事長は会見で、「最悪の事態を考えて、近隣病院などから支援していただくよう依頼している」とし、短期的には診療体制の損失を最小限に食い止めるとしている。さらに、「恒久的な医師派遣をしていただけるように近隣大学にお願いしたい」といい、候補に府立医大をあげるが、「府立医大に限らない」ともいう。
大津市の佐藤健司市長は今月21日の市議会2月通常会議の本会議冒頭で、市民病院の問題について、「設置者として遺憾。こうした事態を招いた法人の責任は極めて重い。県に協力を要請するなど、設置者として対応に努める」と市民や患者に対して説明した。
コロナ禍の最中に不安、心配は尽きない。(野瀬吉信)