村上市の米菓製造大手「三幸製菓」荒川工場で6人が死亡した火災後、同社が初めて開いた記者会見。佐藤元保最高経営責任者(CEO)は冒頭、犠牲者と遺族に謝罪した。ただし、記者会見は遺族が再三にわたって要望し、火災から約3カ月半を経てようやく実現。一部の遺族は同社本社の別室で中継を見守った。【内田帆ノ佳、池田真由香、露木陽介】
記者会見場には報道陣約30人が集まった。午後4時、佐藤CEOは紺色のスーツ、ネクタイ姿で入場すると、10秒ほど頭を下げて席についた。会見には一人で臨み、冒頭「誠に申し訳ございませんでした」と述べ、約10秒間頭を下げた。
遺族や報道機関から要望を受けていたにもかわらずこれまで記者会見を開かなかった理由については「まずは何よりも遺族に直接、対面で謝罪と説明をするのが優先だと考えていた。報道機関には正確な情報を調査の上、文書で伝えようと考え、今回、一定の説明ができる段階になったと判断した」と説明した。
火災は2月11日午後11時40分ごろ発生。アルバイト従業員の女性4人と男性社員2人が死亡した。
火災直後、遺族への連絡が遅れたとされ、佐藤CEOは理由を問われると「深夜で事務所にいたのが工場長のみで、個人情報保護の観点から名簿の場所が知らされていなかった」と説明。自身は発生時に自宅にいたといい「火災の連絡を受けたのが、(12日)午前2時で、現場に着いたのは午前6時だった。もっと早く行動するべきだった」と釈明。連絡が遅れたことで病院でなく、警察署内で遺体と面会した遺族もいたことを問われると「おわびのしようがない」と述べた。
全焼した同工場の「F」棟については「損傷が激しく、警察から早く解体してほしいと言われている。6月に解体する予定で、遺族から希望もあり、取り壊し前に写真を提供する」と話した。
遺族への事前説明なく生産再開をホームページで公表したことについては「結果として会社が遺族を軽視するような結果となった。原因は最終的に警察、消防が断定するもの。安全上に問題がない上で再開したいと考えていた」と釈明した。
会見では、東京理科大の松原美之教授(安全工学)を委員長として社内に設置した荒川工場火災事故調査委員会の第1次報告書に基づき、火災の状況について約50分間説明。立ち上がってプロジェクターで映し出された図面を指さす場面もあった。従業員が逃げ遅れた原因に「避難訓練の未実施」などを挙げ、再発防止対策に向け「企業風土を抜本的に改革していく」とした。
約3時間に及んだ会見の最後には「マスクを外した状態でもう一度」と述べ、改めて謝罪し会場を後にした。
遺族「再発防止対策を」 募る不信感、会見が「第一歩」
火災の犠牲者のうち、伊藤美代子さん(当時68歳)と近ハチヱさん(同73歳)の遺族ら8人はこの日、三幸製菓本社に記者会見場とは別に用意された部屋のモニターを通して会見を見守った。
伊藤さんの長男(44)は会見後、報道陣の取材に「『会見を聞いてからでないと判断できない』という遺族にとっても第一歩になったと思う」と話した。そのうえで「しっかりと(再発防止)対策をしてほしい。数カ月でまた火災がないように」とクギを刺した。
伊藤さんの家族によると、火災後、同社の担当者が6~7回、胎内市内の伊藤さん宅を訪れ、火災当時の状況やその後の対応などを説明した。ただし、他の遺族が聞いた話と食い違いがあるなど、説明には一貫性がなかったという。不信感を募らせた遺族たちは合同説明会を要望。火災から1カ月半が過ぎた4月29日になって、ようやく佐藤元保最高経営責任者(CEO)らによる説明会が開かれることになった。
だが、説明会の約1週間前、同社はホームページ(HP)上で操業を停止している県内3工場で順次、生産を再開すると発表した。事前の説明がなかったことから遺族たちと同社との溝は深まり、説明会を経ても解消されなかった。さらに、遺族たちは再三にわたって記者会見の開催を同社に要望し続けたが、回答は「検討します」の一点張りだったという。
そして説明会から約1カ月後の5月29日。同社社員が伊藤さん宅を訪れ、4月の説明会で受けた質問に対する回答書面を手渡し、記者会見を開く方針を伝えた。30日にも再び同社担当者が来て、31日に開く記者会見の概要を説明した。この時は「(会見への)出席は控えてもらいたい」と告げたが、午後3時ごろに電話で「別室を用意して中継を見せるので、来てもかまいません」と、態度を一変させたという。
伊藤さんの夫(74)は会見前日の30日、こう言った。「三幸製菓は『何も言わなくてもいい』と思っているのか……。どうなってんだか分からね。3カ月たったけど、おらにすれば何も変わらね」。会見が行われた三幸製菓本社に、夫の姿はなかった。
三幸製菓工場火災を巡る経緯
2月11日 荒川工場で火災発生。約11時間半後に鎮火
12日 アルバイト従業員の渡辺芳子さん(火災当時71歳)、伊藤美代子さん(同68歳)、近ハチヱさん(同73歳)、斎藤慶子さん(同70歳)の死亡を確認
15日 県警が業務上過失致死容疑で三幸製菓本社と荒川工場を家宅捜索
17日 遺体の1人が社員の渡部祐也さん(同22歳)と判明
21日 遺体の1人が社員の田中雄大さん(同23歳)と判明し、死亡した6人全員の身元を特定
4月21日 三幸製菓がホームページで、火災後操業を停止していた県内3工場について順次生産を再開し、6月ごろから出荷・販売を再開すると発表。後に再開時期を見直し
29日 三幸製菓が村上市内で遺族説明会を実施。参加者によると、佐藤元保最高経営責任者(CEO)らが工場再開と火災のあった建物の取り壊す方針などを説明、遺族は反発
5月27日 社員が遺族宅を訪問して謝罪し、4月の説明会で受けた質問に回答。記者会見を開く方向で検討していることを伝える
31日 三幸製菓が初の記者会見を開催