ネット販売「痩せる食品」に未承認薬、体重減ったが激しい動悸や冷や汗…健康被害今年10件

個人輸入で流入か

ダイエット効果をうたい、国の未承認薬「シブトラミン」を含む食品がインターネット上で販売される事例が後を絶たない。未承認薬を使った商品の売買は違法だが、今年だけで10件の健康被害が厚生労働省に報告されており、過去には死亡例も起きた。SNSなどで手軽に購入できるのが実情で、今後、被害が広がる恐れも指摘されている。(上田惇史、糸井裕哉)

「食べるだけで痩せる」。西日本に住む30歳代の女性は今年3月、SNS上でこう宣伝していた動画配信者からダイエットゼリー2箱を8800円で買った。
指示に従って食べ始めたところ、2週間ほどで体重は4キロ以上減ったという。だが、まもなく立っていられないほど激しい

動悸
(どうき)に襲われ、冷や汗も止まらなくなった。
不安を感じて保健所に相談すると、ゼリーに含まれていたシブトラミンが原因とみられることがわかった。女性は「未承認薬が含まれているとわかっていたら買わなかった」と悔やむ。
シブトラミンは1997年、脳に作用して食欲を抑制する肥満治療薬として、米当局に承認された。ところが、血圧の異常上昇などの深刻な副作用が相次いで確認され、米国内では服用後に100人ほどが死亡している。このため、一部の米製薬会社は2010年に取り扱いを中止し、日本でも販売の動きは途絶えた。

ただ、国内では今年に入り、ベトナム産とみられるシブトラミン入りのゼリーやチョコレートの流通が目立つようになった。厚労省によると、今春以降、神奈川や宮城、福岡など8県の延べ10人が吐き気やめまいなどの症状を訴えた事例が報告されており、同省は「症状が軽く、保健所が把握していないケースも少なくないだろう」とみている。
愛知県警は10月、シブトラミン入りゼリーを販売したとして、都内に住むベトナム国籍の女を医薬品医療機器法違反容疑で逮捕した。
女は現地から取り寄せたゼリーをフェイスブックなどで宣伝。「簡単! 1日一回だけ」「必ず痩せます」などと説明し、少なくとも50回販売して30万円以上を売り上げていた。県警の調べに「食品だと思っていた。未承認薬が使われているとは知らなかった」という趣旨の供述をしたという。

同法では未承認薬の販売を禁じているが、個人による輸入は妨げていない。訪日外国人が自国で承認された医薬品を使えるようにする必要もあるためだ。
実際、シブトラミンはタイや香港、インドなどから個人輸入が可能で、問題となった食品の多くは、未承認薬が含まれることを伏せた上で、食品として入ってきたとみられている。同省の担当者は「輸入される食品すべてを調べるのは困難だ」とした上で、「まずは販売者側が安全性を確認する必要がある」と話す。
一方、ツイッターやインスタグラムなどでは、「食べるだけ」といった文言で、ダイエットや健康増進効果があるとする食品を宣伝する個人の書き込みが少なくない。
未承認薬に詳しい金沢大の吉田直子助教(社会薬学)は「シブトラミンと知らずに摂取するのは危険性が高い。判明している健康被害も氷山の一角だろう」とし、「消費者も『食べるだけで痩せる』といったSNS上の安易な広告に惑わされず、販売者や商品をよく確かめるべきだ」と指摘する。
国内死亡例も…未承認薬

未承認薬を巡っては、国内でこれまでも問題化する事例が多数起きている。
2002~18年には、タイから輸入された「ホスピタルダイエット」「MDクリニックダイエット」などと称する薬を服用した人たちの体調急変が相次いだ。
厚生労働省によると、全国で22人が被害を訴え、このうち4人が死亡した。シブトラミンなどが含まれており、インターネットの輸入代行業者を通じて入手したとみられている。02~05年頃には、未承認の食欲抑制成分などを含有する中国製の健康食品を食べた人が、肝機能障害などを発症した。
国民生活センターによると、未承認薬に関する相談の統計はないものの、健康食品を巡るトラブルは多いときで年間4000件ほどに上るという。消費者庁も健康食品の購入時には注意するよう呼びかけている。