最近、高市早苗首相をめぐって2つの問題が報じられている。ひとつは、高市首相の名前を冠した暗号資産「サナエトークン」問題。もうひとつは、総裁選や衆院選でライバル候補や野党を中傷したという「ネガキャン動画」疑惑だ。
さらには「玉木トークン」構想まで
一見すると別の話に見える。片方は仮想通貨をめぐる金融トラブル、もう片方は選挙戦のSNS工作である。実は、この2つを別々の話として片づけるのは難しい。
時系列をおさらいしよう。
「サナエトークン」問題は週刊現代が詳細に報じ始めた。「これは何なのか」と記事を読むうちに、焦点はしだいに“トークンそのもの”から、“それを仕掛けた松井健という人物”へも移っていった。
週刊現代でレポートしているジャーナリストの河野嘉誠氏は、松井氏の過去の投資トラブルや別の仮想通貨案件、さらには「玉木トークン」構想まで掘り下げていく。そこから浮かぶのは、高市支持の純粋な政治活動というより、「話題性のある」政治家に目を付け、ビジネスにしようとする松井氏のスタイルだ。そんな人物が高市陣営の周辺に入り込んでいたことになる。
そこへ週刊文春が登場する。最初の切り口はやはりサナエトークンだった。しかも松井健氏本人の“独占告白”という形である。
松井健氏の主張はシンプルだ。「サナエトークンは高市側に無断で勝手にやった話ではない」ということである。松井氏は高市事務所の木下剛志秘書らに暗号資産であることを説明していた、という主張だ。
いま読み返すと面白いのは、その初回インタビューの中に、後の展開の“前フリ”がすでにしれっと書き込まれていることだ。高市陣営との出会いである。
松井氏はこう語っていた。昨秋の自民党総裁選直前、「高市陣営が苦戦しているので手伝ってほしい」と声がかかり、高市事務所の木下秘書らとリモート会議をした。そこでSNS戦術のアドバイスをし、実際に無償で手伝った、と。
この部分を読んだとき「え、SNS戦術って何?」とザワザワしたが、この号ではあくまでサナエトークン問題への弁明だった。
すると、松井氏の“独占告白”を載せた週刊文春は、4週間後、そのインタビューでさらりと触れられていた「SNS戦」を本格的に報じる。
高市陣営が総裁選や衆院選で、ライバル候補や野党を中傷する動画をSNSで大量拡散していたというスクープだ。小泉進次郎氏を「無能」「売国」と攻撃し、野党を「クレーマー」と批判する内容まであった。しかも、その作戦に松井氏が関与し、高市陣営の側近秘書と連携していたというのだ。
高市陣営のために中傷動画を作成したという具体的な証言は…
つまり、サナエトークンの仕掛け人とされる人物は、単なる“仮想通貨の人”ではなく、高市陣営の情報戦にも関わっていた人物だったのである。
ある意味、松井氏のインタビューは、高市陣営から「知らない」と言われ始めた状況に“くぎを刺す”ようにも見えた。高市陣営のために中傷動画を作成したという具体的な証言は、高市側へのけん制にも読めた。
では、サナエトークン問題を追ってきたジャーナリスト・河野嘉誠氏は、この一連の流れをどう見ているのだろうか。筆者がパーソナリティーを務める『プチ鹿島 赤坂タイムス』(TBSラジオ)の5月23日放送回で直接聞いてみた。
河野氏が特に問題視していたのは、サナエトークン設計者の松井健氏の「説明の食い違い」だ。松井氏は文春で「自分たちはトークンを直接売っていない」と語った。ところが松井氏の会社が仮想通貨の違法な「事前販売」をしていた疑いがある。
現在では、契約者から数千万円~数億円規模の返金要求が相次いでいる実態もあるという。もはや単なるネット騒動ではない。
そのうえで中傷動画問題を尋ねると、確かに問題だが「松井健という人物が高市陣営のネット戦略をすべて作った」と単純化するのも違うようだ。河野氏によれば、高市陣営はもともとネット戦略にかなり力を入れていた。24年と25年の総裁選でも政治団体だけでも動画関連に多額の資金を投じていたという。しかも陣営側の説明では、本当に大きかったのは支持者向けの全国行脚だったという。
ただ、「怪しい人物にたまたま利用された」とだけ見るのも違う。河野氏によれば、松井氏は「木下別働隊」的な感じではないかという。つまり、高市陣営がネット戦略に力を入れていた流れの中に、松井氏が入り込んでいった構図だ。松井氏の目的は、誹謗中傷動画作戦の共犯になることで信用させ、サナエトークンをやることだったのではないか、という。
「週刊誌の記事が証拠でございますか」と反論
だとすれば高市首相は中傷動画問題について説明する責任がある。「私は秘書を信じる」という話だけでは済まないだろう。首相は国会で「週刊誌の記事が証拠でございますか」と反論した。だが問題は、週刊誌を信じるか秘書を信じるかという話ではない。報じられた内容に対し、どこまで確認し、何が確認できていないのか。その説明責任が問われているのである。少なくとも報道側は、メールやメッセージなど具体的な資料を示している。
今回の件は首相側の「インテリジェンス(情報収集・分析)機能」の致命的な弱さを象徴していないだろうか。松井氏のような人物がなぜ首相の周辺に入り込めたのか。
高市首相は「国家情報局」の設置やスパイ防止法制定を強く訴えている。だが、その足元ではどうだったのか。近づいてくる人物を見極めることすらできていなかった。
その結果どうなるか。河野氏は最新記事で、金融庁が調査を続けている一方、警察による本格捜査には進展が乏しい背景として、総理事務所案件のため忖度が働いている面は否めないとし、「令和の森友問題」との指摘もあると報じている。
もし首相が本気で「情報」を重視するなら、まず検証されるべきは「最高権力者」の周辺で起きた今回の情報案件ではないか。その検証を置き去りにしたまま、国家情報局などのルールづくりだけが先行するのは妙だ。
今回の騒動は、「情報を扱う側」の危うさを示した事件でもある。近づいてきた人物を見極められず、結果として情報を握られ、振り回される。国家の情報力強化を訴える政治家自身が、その危うさを露呈しているのである。これほど皮肉な状況もない。今問われているのは情報をどう集めるかではない。自分にとって都合の悪い情報とどう向き合うのか、だろう。
(プチ鹿島)