なぜ「女性宮家」の可能性を閉ざすのか? 皇位継承のあり方を考えてきた野田佳彦元首相が、高市政権下の議論に“違和感”を覚えるワケ

立憲民主党時代、党の「安定的な皇位継承に関する検討委員会」の委員長を務め、独自の論点整理を行った野田佳彦元首相(69)は語る。
「皇室制度については、国論を二分するテーマにしてはならない。にわかに政争の具とせず、『国民の総意』を探るべきです」
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皇室の問題を政争の具にしてはいけない
もともと、今回の議論のスタートは、2016年8月に上皇陛下が出されたビデオメッセージでした。その思いは、単に皇統を途絶えないようにするのではなく、国民に寄り添い、被災地や激戦地に足を運んで行動される象徴としてのお務めを途切れなく続けていくためにはどうしたらいいか、という切実な投げかけだったはずです。
その要請に応えるべく、我々は生前退位を特例法としてまとめ上げました。その際、安定的な皇位継承を確保するための諸課題と女性宮家の創設等について、政府が検討し速やかに国会に報告するよう求める附帯決議を採択しました。
ところが、その後に実施された政府有識者会議の2021年末の報告書は「機が熟しておらず」として、あえて結論から逃げており、加えて「女性宮家」という言葉すら出てこなかった。
にもかかわらず、いま政府・与党が唐突に、男系男子による皇位継承を声高に主張し始めて、皇室典範を改正しようとしています。さらに有識者会議では女性皇族がご結婚されたあとも皇室に残る案、旧宮家から養子縁組する案が並立していましたが、現在与党は養子縁組案を第一優先にしています。これまで培ってきた熟議を逸脱して、皇室の問題を政争の具にするつもりかと疑わざるを得ません。
与党が推し進めたい養子縁組案には、様々な問題が潜んでいます。
養子縁組案に潜む「三つの問題」
まず、当事者の意思です。養子になるご本人にその意思があるかどうかが最も大事なはずです。女性皇族にしても、結婚後は民間人になる前提で生きてこられたわけですから、皇族に留まりたいと思わない可能性もあります。ご本人が選択できるようにすべきなのです。
次に、男系男子にこだわるあまり、遠縁すぎる方が即位する場合、国民がどう見るか。1947年に皇籍離脱した旧11宮家は、男系を遡れば1300年代、600年以上前の崇光天皇に行き着く。男系男子の流れとしては実に20代前まで遡り、計算上、20代前の祖先は100万人にのぼります。直近の天皇本人から“100万分の1”を継ぐ血縁に過ぎません。果たして、その血をもって男系男子を引き継ぐというやり方が国民の理解を得られるでしょうか。
憲法第1条で規定されている「国民の総意」に基づくかどうか、衆議院法制局でさえ違憲か合憲か両論あると認めているのに、そのような案に踏み込んでしまってはいけない。天皇の問題についてこそ、立憲主義に立たなければなりません。
そして、次の世代の問題もあります。例えば養子縁組で入った方が結婚して男の子が生まれたら、皇位継承順位に入る。一方で愛子さまが民間の方と結婚されて皇籍を離脱し、お子様が生まれたとします。すると世間は間違いなく、「どちらが天皇にふさわしいか」という見方をするでしょう。それで果たして象徴天皇制が持つのか疑問です。
このように養子縁組案には懸念も多いのです。
やはり、議論の出発点に立ち返るべきです。まずは女性宮家を創設し、皇族として活動できる環境を整備すべきではないでしょうか。
女性宮家は「女系天皇につながる」のか?
私の内閣時代に行った女性宮家の論点整理では、配偶者と子供も皇族になる「A案」と、配偶者らは民間人のままである「B案」の2つを提示していました。ところが、有識者会議の報告書やそれ以降の政府・与党の議論がおかしいのは、A案を完全に除外していることです。配偶者らが民間人のままとなるB案のみが俎上に載っているのです。
B案について考えましょう。女性皇族だけが皇籍に残ると、その家庭は矛盾の塊となります。皇族はあらゆる自由が制約されますが、民間人の配偶者やその子供はそうではない。例えば政治的メッセージをSNSで発信することや、立候補すること、政党を作ることも可能です。政治的中立性をどう担保するのでしょうか。お子さんがスカウトされて芸能人になることだってあり得ます。制約された皇族と自由な民間人が同居する家庭で、ファミリーとしての一体感を保つことは極めて難しいかもしれません。
こうした複雑な議論を無視すべきではない。したがって、B案だけに絞る性急な議論には異を唱えたい。
女性宮家創設への反対派は、女系天皇につながる「恐れ」があると言いますが、皇室典範第1条(「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」)を変えない限り、女系天皇は生まれません。「恐れ」だけで女性宮家の可能性を閉ざしてはいけませんよ。
高市首相のやり方は非常に危うい
女性宮家が創設されれば、愛子さまもご結婚後、皇室に残る可能性が出てきます。国民の要望として女性天皇、愛子天皇があってしかるべきだし、男系女子が天皇に即位した例は過去にもあります。もちろん、皇位継承を人気投票で決めるべきではありません。ただ、昨年の園遊会などで愛子さまとお会いした際には、やはりご覚悟をされているようなオーラを感じました。国民もそれを感じ取っているからこそ、愛子天皇待望論が生まれるのでしょう。
ひょっとしたら、女性初の宰相である高市首相の政権ならば、待望の愛子天皇につながる、というイメージすらあるんじゃないでしょうか。実際には高市首相は、皇室については女系を頑なに排除するどころか、女性天皇にすら、否定的な発言をしているわけです。
かつて上皇陛下の生前退位を実現した際、当時の安倍政権は我々の意見も聞き、立法府の総意を探る姿勢があった。翻って、結論ありきで国論を二分してでも決めてしまおうとする現政権のやり方は、非常に危ういと言わざるを得ません。
「 週刊文春 電子版 」では、 旧宮家の生活実態や本人たちを連続直撃した【「愛子天皇」大論争に新展開】旧宮家・男系男子の衝撃告白「女系天皇でいい」 など続報を配信中。 女性・女系天皇の賛否についての25000人アンケートの結果 や 「愛子天皇」をなぜ高市首相は拒絶するのか《宮内庁長官を直撃》 など「愛子天皇」論争について詳しく報じている。
〈 「なぜ愛子さまが天皇になれないのか。率直に疑問です」男系男子縛りはもはや“ムリゲー”。時代に即した皇室のアップデートを 〉へ続く
(野田 佳彦/週刊文春 2026年5月7日・14日号)