別居中の妻、第三者の精子を「夫のもの」と偽装し出産…夫が不妊治療を行った病院提訴「確認が不十分」

別居中の妻が第三者の精子を夫のものだと偽って体外受精し、妊娠・出産したのは、不妊治療を行った病院の確認が不十分だったためだとして、夫である京都市の男性が、病院を運営する同市の医療法人に慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴したことがわかった。第三者の精子であることが病院に隠されたまま使用されたのが明らかになるのは極めて異例。(京都総局 林美佑)
3月26日付の訴状や男性への取材によると、男性と妻は2020年1月、第2子の出産に向け病院側と不妊治療の契約を結んだ。受精卵が凍結保存されたが、22年1月以降、2人は別居し、離婚協議に入った。
妻は、署名を偽造した男性の同意書を病院に提出し、受精卵を子宮に戻したが、妊娠しなかった。このため、さらに同意書を偽造して第三者の精子を「夫の精子」と偽り、追加で病院に提供。23年8月、この精子を使い、第2子を出産した。
離婚の話し合いが進む中、妻から妊娠を打ち明けられて発覚。男性は妻を刑事告発し、妻は昨年4月、男性の同意書を偽造し、病院に提出した有印私文書偽造・同行使罪で懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受け、確定した。
男性は訴状で、追加の精子提供について、病院が男性に対面で同意の確認をしていれば、同意書の偽造や第三者の精子だと気づくことができたと主張。「子どもをもうけるかどうかの自己決定権を侵害された」としている。
男性は離婚訴訟も起こし、妻側は、男性と無関係の子を妊娠したことを認める書面を提出していた。男性は今回の訴訟で、この書面を証拠請求している。
病院側は答弁書で請求棄却を求めている。男性の同意に関し、対面や電話での意思確認を求めるルールはないと反論。「精子が男性のものでないこと、男性が治療に同意していないことを疑わせる事情はなかった」と責任を否定している。
病院は取材に「事実誤認に基づく訴訟で、対応が適切であったことを訴訟の中で明らかにする」としている。
第1回口頭弁論は3日に開かれる予定。
男性は昨年、離婚が成立。第2子は妻が育てている。男性と第2子の間に生物学上の親子関係はないが、子のことを思い、戸籍上は親子のままにし、養育費も支払っているという。「不妊治療は生命の誕生という重大な責任を伴う行為。病院による確認はもっと慎重であるべきではないか」と話した。
本人の申告前提だが「確認困難」
不妊治療に関しては、日本産科婦人科学会が医療機関に対し、夫婦に治療の方針を説明し、事前に書面で同意を得るよう求めている。ただ、どの段階で同意を取るかといった細かいルールは各医療機関に委ねられ、男性側への本人確認も、明確な規定がない。
こうした中、妻が、凍結保存していた体外受精卵を夫に無断で使用したとして訴訟になるケースが散見される。
同学会指導医の資格を持つ大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)産科・婦人科の竹村昌彦主任部長は「本人の申告に基づき治療するのが医療の大前提。現状のルールでは、患者側が虚偽の説明をしても、病院が見抜くことは難しい」と指摘。「病院による確認を厳密にすれば、患者、病院双方の負担が増え、治療のハードルが上がってしまう」と対策の難しさを語る。
不妊治療を行う田村秀子婦人科医院(京都市中京区)では、採卵や受精卵の移植などの際、夫婦双方に自筆の同意書を提出してもらった上で、治療開始時に提出された同意書の筆跡と同じかを確認するなどしている。