豚コレラのイノシシ対策の難しさ 養豚場守る方が大切

豚コレラの感染が広がる中、ウイルスを運ぶ野生イノシシの対策が注目されている。ただ、イノシシが専門で農林水産省の調査チームなどに入る小寺祐二・宇都宮大准教授(49)は、捕獲で封じ込める難しさや感染を広げるリスクを指摘。「イノシシにどの程度労力とコストをかけるべきかという議論があっていい」とした上で、「養豚場のバイオセキュリティー(防疫)を高め、豚とイノシシを持ち込む家畜保健衛生所や検査する職員を分けるべきだ」と提言する。【林田七恵】
秋はイノシシが動く季節
9~10月、埼玉、群馬両県で豚コレラの感染が確認された。栃木県境から数十キロで、利根川などの緑地が栃木県南のイノシシ生息域にもつながる。
小寺准教授が以前、島根県で調べたところ、おとなの雌イノシシの定住範囲は1平方キロ程度。ただ9月ごろから、おとなになりかけの若イノシシが母親の定住域から外に放浪し、泥浴びやけんかなどでよその個体にウイルスを移しやすい時期に入っている。おとなの雄は緑地を通じて更に遠くまで動く。そもそも農水省などが8月まで考えていた東海・長野などよりも広い範囲でイノシシが感染していた可能性もあり、小寺准教授は「栃木県内にも既に陽性のイノシシが入っていると疑わなければならない状況」と警鐘を鳴らす。
であれば、イノシシの捕獲やイノシシへのワクチン散布が重要に思えるが、「トレードオフ(代償)がある」と小寺准教授。1994~2002年に島根県内で捕獲が生息数にどう影響したか調べた経験から、「広葉樹林や耕作放棄地、竹林などすみやすい環境があれば、捕獲を増やしても個体数は増える」と難しさを説明する。現に栃木県内でも、推定生息数を上回る数を捕獲しても、イノシシの出没は止まっていない。

一方で、わなの設置やワクチンを混ぜた餌をまくため人が山に入ると、ふんを踏むなどしてウイルスを運んでしまうリスクがある。捕獲したイノシシの血液をこぼさずに運ぶなど技術的なハードルもある。「イノシシの感染拡大を封じ込めるのは難しい」というのが小寺准教授の見方だ。
防護柵、草刈りが効果的
だからこそ大事になるのが養豚場をウイルスから守る対策だ。小寺准教授が挙げるのが、イノシシを閉め出す防護柵と、イノシシが好むやぶなど周りの草刈りだ。栃木県茂木町内で行われた調査では、周辺10メートル程度のやぶや耕作放棄地をきれいにすると、イノシシが近寄りにくくなったという。豚舎の周りを消毒し、イノシシを招いてしまう豚の餌を屋外に放置しないことも重要だ。
ハイキングの後は靴の消毒を
そして人がウイルスを運ばないために、養豚場に出入りする人が靴の履き替えや消毒を徹底するのはもちろん、「豚とイノシシを検査する家畜保健衛生所(家保)や職員をあらかじめ分けるべきだ」と提言する。というのも家保は農家への日常的な指導や豚の検査などと野生イノシシの検査の両方を担う。万が一消毒などにミスがあれば、検査したイノシシのウイルスが人を介して豚に広がる懸念がある。県の担当者は「なるべくラインや担当者を分けているが、イノシシの検査数が増えると厳しくなる。どうすべきか検討している」と話す。
養豚場の近くに住む人や、ハイキングやキノコ採り、ゴルフなどで山あいに入る市民も人ごとではない。山中のウイルスを運んでしまわないよう「山へ出入りしたら消毒してほしい」と小寺准教授。庭や畑にペットフードや堆肥(たいひ)代わりの生ごみを置くのもイノシシを招いてしまうので控えたい。