成田空港の国際線の旅客減が止まらない。新型コロナウイルスの感染が世界に広がり、海外への渡航中止勧告や一部の国からの入国禁止で往来が大きく制限され、航空各社は追加の運休や減便を決めた。3月1~21日に空港を利用した出国旅客数は26万1700人と前年同期比72%減となり、売り上げが激減した空港内の店舗の約9割は営業時間短縮や臨時休業の措置を取る。航空関係者は「これほどの旅客の減少はかつて経験したことがない」と危機感を募らせる。【中村宰和】
夕方、国際線の出発ロビーから旅客が消え、案内モニターにはすべて欠航を示す赤い文字が並んでいた。ウミガメの可愛い姿を描いて人気の超大型機は飛ばなくなった。
航空各社は3月29日からの夏季ダイヤで運航を大幅に減らしている。全日本空輸は4月24日までに日本発の国際線4057便の運航を取りやめ、計画便数の87%減になる。日本航空も85%減らし、同30日までの国際線4366便の運休と減便を決めた。一部の外国の航空会社は運航を停止する。日本からの入国制限の措置を取る国・地域は181に増え、中国など外国人が事実上入国できない国もある。観光するような状況になく、「世界中どこにも飛べない壊滅的な状態」(航空関係者)になっている。
成田発着の看板路線や新規路線も軒並み運休となり、全日空は米ハワイ・ホノルル線を運休し、機体にウミガメをデザインした超大型機のエアバスA380の運航を取りやめた。再開の時期は未定で、3機目の受領を半年程度延期すると決め、6月1日から3機態勢で運航する計画は遅れる。3月16日に初便が飛んだばかりのロシア・ウラジオストク線も運休している。
日航の成田―ホノルル線も運休になった。日系の航空会社として初めて、全日空に先駆け2月28日に開設したウラジオストク線も間もなく運休した。3月29日のインド・ベンガルール線の新規就航も延期に。両路線の開設の準備は4、5年かかり、計画立案から両国の航空当局との調整、現地の受け入れ態勢と拠点整備などを進め、ベンガルール線は初便を待つばかりだった。
国内線の旅客も減少傾向にあり、格安航空会社(LCC)のジェットスター・ジャパンは3月29日~4月27日に成田発着を含め920便の減便を決めた。
旅客の激減に伴い、年間約1200億円の売り上げがある空港内の店舗も苦境に立たされる。3月1~21日の売り上げは前年同期比74%減った。7日現在で、316店舗のうち、90店が臨時休業し、193店が営業時間を短縮している。
4月末からのゴールデンウイークの状況も厳しい。大手旅行会社JTBは海外へのパッケージ旅行について、すべての国と地域を対象に、5月31日出発分までの催行を中止している。広報室は「かつて経験したことのない事態で、今は命を守ることが最優先になる。安心して海外旅行を楽しめる日が早期に訪れることを願う」とコメントした。
成田国際空港会社は総額100億円の緊急支援策をまとめた。事務所やチェックインカウンターの賃料、手荷物取り扱い施設や搭乗橋の使用料、テナント料について、2割相当の20億円を3カ月間減免する。航空機の着陸料と駐機料80億円の支払いを3カ月間猶予する。田村明比古社長は3月26日の定例記者会見で「航空会社やテナント事業者と一致団結して影響を乗り越え、一刻も早い運航便の回復を図っていきたい」と述べた。成田と関西、仙台、中部、高松、福岡の6空港で構成する協議会は3月19日、国土交通省に対し、空港運営に関する支援の検討を申し入れた。
空港では感染防止の警戒が続く。帰国した海外旅行者の感染が相次いで判明するほか、運航乗務員や客室乗務員、空港内従業員の感染も確認された。水際対策を強化するため、帰国者に対する検疫業務は自衛隊の支援を受けて実施されている。