「支援はいらない」 両親が面会35回拒絶 感染不安も理由に 埼玉・乳児放置死

埼玉県美里町で2020年9月、生後3カ月の女児を放置して死なせたとして両親が逮捕された事件では、両親が町職員による35回にわたる女児への面会要望を拒絶し、児童相談所が対応に乗り出す前に事件に至った。父親は感染不安も面会拒否の理由に挙げており、コロナ禍の中、虐待のリスクがある家庭への支援は困難さを増している。専門家は、家庭状況把握のために方策を練る必要性を指摘している。【中川友希、平本絢子、成澤隼人】
児相対応前に犠牲
町が生後3カ月で亡くなった金井喜空(きあ)ちゃんの母あずさ容疑者(28)と関わりを持つようになったのは、次女(5)の妊娠が判明した15年ごろのことだった。当時未婚だったあずさ容疑者は、経済的な不安などを相談。町職員の訪問も受け入れていた。
しかし、19年7月ごろに裕喜容疑者(29)との交際・同居が確認されてから、裕喜容疑者が対応の「窓口」になり、支援を拒絶するように。同9月、町や児童相談所、警察などでつくる「要保護児童対策地域協議会」(要対協)はこの家庭への支援を決定。町を中心に支援することにした。
だが、裕喜容疑者のかたくなな態度は変わらない。20年3月に町職員が訪問した際、「支援はいらない」と怒り、以後、訪問を受け付けなくなった。
あずさ容疑者が同5月に喜空ちゃんを含む双子を出産後、町は両親に電話で計35回、面会を申し込んだ。裕喜容疑者に23回、あずさ容疑者に12回電話したが、あずさ容疑者は出ない。裕喜容疑者からは数回応答があったが、「ばかにしているのか」などと怒り、拒否したという。
町はあずさ容疑者の親族に依頼して連絡を試みたが、親族も玄関先で話すのみで、双子に会えないことが少なくなかった。「自分たちは一生懸命やっているのに、周りが認めてくれない」。町によると、裕喜容疑者は親族にそうこぼしていたという。
8月24日には、警察が近隣からの通報を元に自宅を訪問。喜空ちゃんの体を確認し、虐待がないと判断した。要対協は再び会議を開き、9月の乳児健診で双子の安否が確認できなかったり、両親と連絡が取れなかったりした場合、児童相談所が対応に乗り出すことにした。児相は児童虐待防止法に基づき、虐待が疑われる家庭に強制的な立ち入り(臨検)を行うことができる。
ところが、事態は急変する。
9月9日、両親は病院の乳児健診に訪れず、町は親族に家庭訪問を依頼。しかし同11日未明、喜空ちゃんは救急搬送先の病院で死亡した。「10日に訪問したが、会えなかった」。親族から町に連絡があったのは、亡くなった後のことだった。
裕喜容疑者は新型コロナウイルスの感染不安も面会拒否の理由に挙げていた。町は両親と子どもにベランダに出てもらった上で電話し、遠方から職員が目視することも申し込んだが、断られた。
関西大の山県文治教授(子ども家庭福祉学)は町の対応について「家庭に関する情報を口頭と視覚で得ることが大切だ。子どもに会えない状況は危険。乳児健診まで待つ理由はなく、児童相談所による立ち入り調査を依頼しても良かったのでは」と話す。要対協で、児相がより積極的に関わる必要があったとも言う。
コロナ下での家庭訪問については、接触の仕方を工夫する必要性を指摘する。具体的には、自治体職員よりも抵抗感が少ないと思われる保健師が訪問する▽大人だけでも会えないか交渉する▽民生委員や町職員が家の周りに行き、生活状況を目視する――といった策が考えられるという。