容体急変でも受け入れ先見つからず 大阪で「搬送困難」急増

新型コロナウイルスの感染が拡大している大阪で、療養先の自宅やホテルで容体が急変した患者の受け入れ先の医療機関が見つからず、救急搬送に時間を要するケースが相次いでいる。総務省消防庁によると、搬送に手間取った大阪市内の「救急搬送困難事案」は4月18日までの1週間で前々週に比べて3倍超の130件に上り、その後も高止まりしている。重篤ではないことを理由に搬送されなかったケースもあり、感染者増加に伴い救急現場が難局に直面している現状が浮かぶ。
府によると、自宅やホテルで療養するコロナ感染者は療養先調整中の人数も含めて27日現在、1万5829人。容体が急変した場合は原則、保健所に連絡し、府の「入院フォローアップセンター」が受け入れ先を調整する流れだが、患者や家族が119番で救急搬送を要請するケースも少なくない。
同庁は、医療機関で受け入れが可能かどうか救急隊が4回以上問い合わせ、現場到着から搬送開始まで30分以上かかったケースを「救急搬送困難事案」として集計している。大阪市内で新型コロナが疑われる患者の搬送困難事案は、3月29日~4月4日=39件▽5~11日=71件▽12~18日=130件▽19~25日=109件――と推移している。
市によると、4月16~18日に自宅療養中のコロナ患者から38件の119番があり、うち26件は受け入れ先が決まるまで1時間以上待たされた。この他、19日に通報があったケースでは搬送先の決定まで46時間53分かかり、患者は酸素マスクをつけたまま自宅待機を強いられた。
「最後の手段」で119番したが
一方、搬送困難事案と認定されるには時間がかかっても受け入れ先に搬送されたことが前提となる。
大阪府吹田市に住む40代女性は、大阪市淀川区の実家に80代の母親と50代の兄が暮らす。4月11日に兄の感染が分かり、女性が実家で食事の世話や看病を始めたが、数日後、容体が急変、ひどくせき込んで意識がもうろうとした状態になったため17日夜に119番をした。到着した救急隊員は玄関先で兄に応急処置を施す間に保健所と搬送先の調整を進めたが、約2時間待たされた末、血中の酸素飽和度に異常が見られないなどとして搬送は見送られた。翌18日、保健所から連絡があり、21日からホテルで療養している。このケースは搬送困難事案の対象とはならないが、女性は「自宅では対応できず、最後の手段と思って救急車を呼んだのに……」と戸惑う。
府内のある保健所では4月に入り、フォローアップセンターに受け入れ先の調整を依頼した後、1時間以内に決まることはほとんどなくなり、6~8時間かかるケースが相次いでいる。業務に携わる保健師は「スムーズな搬送が難しいので自宅療養中の患者らのフォローが大切。様子を見回る看護師を今からでも増やしてほしい」と訴える。
府は22日、搬送先が決まるまで患者を一時的に受け入れる「入院患者待機ステーション」を大阪市内に開設した。酸素吸入装置を備えたベッド8床を設け、救急救命士らが常駐する。原則、救急搬送が多い正午から午後7時までの予定でスタートしたが、搬送先が決まらず夜間に5人程度の患者が待機する日があった。開設以降、28日朝までに計40人が利用した。
「調整に限界」深刻さ増す病床逼迫
深刻さを増す病床逼迫(ひっぱく)がコロナ患者の救急搬送の遅れにつながっている。大阪府内の重症患者は27日時点で376人で、1カ月前に比べて5倍超になった。このうち重症病床(330床)に306人が入り、使用率は92・7%に達する。あふれた70人は軽症・中等症病床などで治療が続く。
軽症・中等症病床(1967床)には、重症用からあふれた患者を含めて1553人が入り、使用率は79・0%と余裕は乏しい。
府は急増するコロナ患者の受け入れに対応するため、府内の医療機関に協力を呼びかけて軽症・中等症、重症を問わず、病床の追加確保を急いでいる。府の入院フォローアップセンターの浅田留美子センター長は「今ある病床を活用して調整したいが限界にきている。増床に協力してほしい」と訴えている。【田畠広景】