「近畿の水がめ」である琵琶湖の水位が平成19年以来14年ぶりの低水準となり、さまざまな影響が出始めている。漁獲量が減り、船のスクリューが破損し、普段は湖底に沈んでいた坂本城跡が湖面に姿を現した。国土交通省近畿地方整備局琵琶湖河川事務所によると、30日午前6時時点の水位はマイナス68センチ。さらに水位が低下すれば、近畿各府県への取水制限に発展する恐れもある。
シジミ漁獲半分に
「漁のできる場所がどんどん狭くなっている」
琵琶湖から流れ出る瀬田川で漁をする瀬田町漁協組合長の吉田守さん(76)は、すでに影響が出始めていると指摘する。水位が下がったことでシジミの生息場所が変わり、収穫量は通常時に比べ半減。水位を調節する瀬田川洗堰(あらいぜき)の放流量も抑えられており、吉田さんは「シジミの栄養となるプランクトンが十分でなく成育にも影響するかもしれない」と嘆く。
船の航行にも影響が出ている。琵琶湖汽船(大津市)は湖の北部に浮かぶ周囲約2キロの竹生(ちくぶ)島(滋賀県長浜市)の港で、3つある桟橋のうち1つで発着する船の乗降位置を変更した。水位が低下し、従来通りだと利用客らが安全に乗り降りできないためだ。すでに車いすや自転車の積み降ろしはできなくなっている。
同社の川崎和彦さん(55)は「この先、船の2階部分から乗り降りしないといけない可能性が出てくる」と気をもむ。
ビワマスもピンチ
琵琶湖唯一の有人島として知られる沖島(近江八幡市)への定期船「おきしま通船」でも、港の浮桟橋と陸地をつなぐスロープの傾斜が急になった。防波堤の位置が高くなり、船からの見通しが悪くなっているという。同社代表の冨田甚一船長は「島内の小学校へ給食を運ぶための桟橋に着岸できなくなる恐れがある」と懸念する。
マイナス123センチを記録した6年の渇水時には湖岸が干上がり、貝類や沈水植物が死ぬなど生態系に大きな影響が出た。滋賀県水産課によると、今後も雨の降らない状況が続けば、産卵のピークを迎えたサケ科の琵琶湖固有種「ビワマス」の卵が死んだり、川で暮らす稚魚の生息場所がなくなったりする恐れがある。
県漁業協同組合連合会によると、今年はアユの産卵が好調で、大きさもよい傾向だった。アユ漁は12月から始まるが、水位低下が続けば成長が鈍る恐れがあり、来春のニゴロブナやホンモロコなどの産卵への悪影響も懸念されるという。
坂本城石垣も出現
一方、戦国武将・明智光秀が築いたとされる坂本城跡(大津市)では、普段は水面下に沈んでいる石垣が露出した。県によると湖上に現れたのは19年以来。大津市は文化財保護の観点から今月16日、石垣に触れないよう呼び掛ける注意書きを設置した。ボランティアガイドを務める「坂本城を考える会」の山本正史事務局長(80)は「初めて見ることができて感動しているが、これ以上水位が下がるのは心配だ」と話す。
マイナス75センチまで低下した場合、滋賀県は渇水対策本部を設置し、県内に節水を呼び掛ける。琵琶湖の水は河川を通じて京都、大阪、兵庫の各府県でも利用されている。マイナス90センチ程度に達すると、同局や流域府県とともに琵琶湖・淀川渇水対策会議を設け、14年以来19年ぶりとなる取水制限の可否が検討される。
【琵琶湖の水位】東京湾平均海面(T.P.)を基準とし、T.P.84・371メートルを琵琶湖の水位ゼロセンチとしている。滋賀県などによると、琵琶湖の面積は約669・26平方キロメートルで、水位1センチはアリーナ容積が約120万立方メートルの京セラドーム大阪(大阪市西区)約5・6杯分に相当する。