「労力をかけ覚悟をもって結論を出したのに…」裁判員裁判、また地裁ミスで差し戻し

横浜地裁で27日から、東名あおり運転事故の差し戻し審が始まった。4年前に地裁で行われた裁判員裁判で、被告には懲役18年の判決が出されたが、翌年の控訴審判決が地裁の訴訟手続きの法令違反を指摘。審理をイチからやり直すことになった。地裁では昨年も、別の事件の差し戻し審があったばかり。地裁のミスで裁判が長期化する事態となり、専門家からは「裁判員の負担も大きい」と反省を促す声が上がっている。(中山知香)
この裁判では、2017年に起訴された福岡県中間市、無職石橋和歩被告(30)の「あおり運転」に危険運転致死傷罪が適用できるかどうかが争点となった。18年の1審・横浜地裁判決は同罪の成立を認定し、懲役18年(求刑・懲役23年)とした。19年の2審・東京高裁判決も、被告の運転には重大事故を引き起こす危険性があったと指摘した。

しかし高裁判決は、1審の公判前整理手続きで、地裁が検察、弁護側に対し、「同罪は成立しない」との見解を示していた点を問題視した。裁判員の意見を聞いてもいない段階で、地裁が“方向性”を決めてしまっていたことになるからだ。高裁判決はさらに、地裁が裁判員との評議の結果、「成立する」と見解を変更したのに、弁護側に伝えなかったため反証の機会を奪ったとも批判。1審判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。差し戻し審では、1審とは別の裁判員が改めて選任された。

横浜地裁では昨年も、裁判員裁判のやり直しがあった。17年に横浜市で起きた中国人姉妹殺害・死体遺棄事件だ。地裁は18年、殺人罪などに問われた男に対し、凶器不使用の類似事件を参考にするなどしたとして懲役23年の判決を言い渡したが、2審判決で、「類型が異なる事例を参考にしており、量刑判断は不合理」と指摘された。差し戻し審の判決は、求刑通りの無期懲役に変わった。
両事件の裁判のやり直しについて、南山大の岡田悦典教授(刑事訴訟法)は「正しい情報を提供したうえで、もう一度、裁判員の判断を仰ぐのは当然だ」と語る。今回の差し戻し審に関しても「危険運転致死傷罪が成立しうることを前提に、改めて審理を尽くす必要がある。刑罰を決めて執行するには、時間がかかっても厳格さが求められる」とする。
一方で、岡山大の原田和往教授(刑事訴訟法)は「裁判員の関与しない部分が原因で差し戻されており、裁判員に申し訳ないことをしている」と地裁のミスを批判。主張や証拠次第で判断が変わる可能性がある以上、審理はやり直すべきだとしたうえで、「そもそも公判前整理手続きを適切に運用しなければいけない」と指摘した。

中国人姉妹殺害事件の1審で、裁判員を務めた川崎市宮前区の男性(57)は「労力をかけ覚悟をもって結論を出したのに……」とがっかりする。初公判から判決まで断続的に10日間、仕事で滞在していた長野県から地裁に足を運んでいたという男性は「差し戻されたなら、裁判所が直接、裁判員だった人に説明をするなど、せめて誠意のある対応をしてほしかった」と訴えた。
◆東名あおり運転事故=2017年6月5日夜、大井町の東名高速下り線で、石橋被告の妨害運転を受けたとされるワゴン車が車線上で停車、大型トラックに追突され、一家4人が死傷した。石橋被告は追突事故を引き起こしたとして自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)などで起訴された。事故は「あおり運転」を厳しく罰する法改正のきっかけになった。