東京都大田区のマンションで2020年、当時3歳の長女を放置して死亡させたとして、母親の梯沙希被告(26)が保護責任者遺棄致死罪などで懲役8年の実刑判決を受けた。9日の東京地裁判決は、被告が子どもの頃に受けた虐待の体験が犯行に影響を及ぼしたと認定。こうした「虐待の連鎖」は実態の把握が難しく、専門家からは調査や支援の強化を求める意見が上がっている。(杉本和真)
「苦しくて、つらくて、怖くて仕方がなかった」。同地裁で1月28日にあった裁判員裁判の被告人質問。弁護側から実母による虐待を尋ねられた被告は、か細い声で振り返った。
被告人質問での説明によると、被告は小学校入学後、実母らから激しい暴力を受けるようになった。「お前は私の言うことだけ聞いていればいいんだよ」。そうどなられ、口答えすると、口を針で刺されたり、ゴミ袋に入れられて風呂場に投げられたりした。食べ物を与えてもらえず、風呂場の浴槽の水を飲んで飢えをしのいだこともあったという。
公判で弁護側が読み上げた実母の調書などによると、実母は被告が8歳だった2003年9月、被告への傷害容疑などで逮捕された。実母と別れ、高校卒業まで児童養護施設などで暮らした被告。「怒らせないようにいつも相手に合わせ、笑っていた。息苦しかった」。当時の心境をそう明かした。
被告は14年3月に高校を卒業して上京。16年11月、長女の
稀華
(のあ)ちゃんを出産した。「世界でたった一人の、華やかな女性になってほしい」。名前にはそんな思いを込めた。育児日記をつけ、歯が生え始めた時のことや、ハイハイを始めた様子などを記録。「うちみたいになってほしくないから、のんちゃんのためにがんばろうと思った」という。
しかし、17年7月に夫の暴力が原因で離婚。同区のマンションを借りて一人で育て始めたが、育児を相談できる相手はいなかったという。被告は「息抜きのため」、稀華ちゃんが2歳になる頃から、稀華ちゃんを一人残して友人らと遊びに出かけるようになった。
判決によると、被告は20年5月、交際相手の先輩から誘われると、稀華ちゃんを自宅の寝室に閉じ込め、交際相手の住む鹿児島県を旅行。同6月にも同様に旅行に出かけ、稀華ちゃんを脱水と飢えで死亡させた。
「子どもがいるから行けない、とは言えなかったのか」。検察側から問われた被告はこう答えた。「言いたくても言葉が出なくて。自分でもなぜか分からない」
判決は、被告がこうした行動に及んだ背景には、過去に受けた「壮絶な虐待」の影響があると指摘した。虐待に加え、その後、適切なケアを受けられなかったことにより、「相手に本心を伝えることができず、相手の要求に過剰に応えようとする性格になった」とも分析し、「量刑を検討する上で、一定程度考慮されるべき事情だ」と述べた。
それでも、被告が稀華ちゃんを残して外出することを繰り返し、置き去りに慣れてしまった影響も大きいと批判。「一人で衰弱していった稀華ちゃんのつらさと苦しみは言葉にしがたい」と述べ、「悪質で身勝手な犯行だ」と結論づけた。
判決後、裁判員を務めた20歳代の女性は「虐待が世代間で連鎖し、悲しく感じた事件だった。被告には頼れる人がおらず、手を差し伸べる人の存在が重要だと思った」と話した。検察側と被告側の双方が期限の24日までに控訴しなければ、被告の刑は確定する。