「もう死にたいと思った。だって死ねばいいって言われたから」 17歳の高校生を自殺に追い込んだ壮絶な“いじめ”の実態〈同級生の告白〉 から続く
令和2年、若年層10代の自殺者数は777人と過去最多を記録した。その自殺の原因のトップは「学校問題」――いったい子どもたちを取り巻く環境に何が起こっているのだろうか? インスタグラムをきっかけとした「熊本・高3女子いじめ自殺事件」から現代のいじめの本質に迫る。(全2回の2回目。 前編 を読む)
※本記事では深草知華(ともか)さんのご両親の許可を得た上で、知華さんの実名と写真を掲載しています。「同じ悲しみで苦しむ子供たちを救えるような環境に変わってほしい。一人でも多くの方々にこの問題に関心を寄せてもらいたい」というご両親の強い思いを受け、編集部も、知華さんが受けたいじめの実態を可能な限りリアルに伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。
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まるで小学校低学年の学級崩壊
高校3年になって、知華の身にもっとも恐れていたことが起きた。進学コースの3組にいたA子が、突然仲間とともに知華のいる就職コースの2組に移ってきたのである。
2組は、A子たちが来たことによって殺伐とした空気になった。A子はすぐに女子のリーダー的な存在になり、男子のトラブルメーカーだったK也と親しくなった。
ただ、このK也も、いわゆる旧来型の不良タイプではない。遅刻をくり返し、授業中は小学生のように騒ぎ立てる、現代の典型的な幼稚な生徒だったことが、知華の親友の証言から浮き上がってくる。
「3年のクラスは授業になりませんでした。先生が授業をしている最中、K也は突然大きな声で奇声を上げたり、パンをすごい勢いで食べだしたり、机や壁を叩いたりする。周りの生徒たちもだんだんと同じようなことをするようになっていきました。授業妨害っていうか、みんなが衝動的にバラバラにやってる感じ。先生はほとんど注意せず、無視して授業をしてました」
まるで小学校低学年の学級崩壊のようだが、不良のいない現代の学校における荒れ方とはこのようなものなのだ。
SNSのフォロワーが多いことによる妬み
一方で、教室に飛び交う罵詈雑言も2年の時の比ではなくなっていた。相手の人格を否定する暴言が飛び交い、それによって傷つく者がいたとしても、教員はそこに踏み込もうとしない。先の親友はつづける。
「私や知華みたいなおとなしい生徒は、みんなの言葉を聞いているのが本当に嫌でした。ずっと耳を塞いでいるというか、とにかく聞かないでおこうとするのに必死でした。あまりに多すぎて一つひとつちゃんと聞いていたら、こっちがおかしくなってしまいそうだったんです」
知華はこうしたクラスの空気を嫌悪して距離を置こうとしていたが、それがかなわなかった。A子は知華のSNSのフォロワーが多いことを妬んでちょっかいをかけてきていたし、何より2年の冬頃からクラス一のトラブルメーカーだったK也が一方的に知華に恋心を募らせて、猛烈なアプローチをかけていたのである。 熊本県いじめ防止対策審議会の報告書には、知華とK也は恋人として交際していたと記してある。だが、親や友人の話、それに二人のLINEの記録を検討すると、必ずしもそうではなかった可能性がある。
断ることにより、悪口を周りに言われることを恐れていた
まず、母親は知華からK也に告白されたことを教えられた際、「××(知華の親友)をいじめる人で、授業中もめっちゃうるさくて何もないのに突然叫んだりして怖いし、好きじゃない」と聞かされている。それで母親は知華に、「断りきらんならお母さんのせいにして断るたい(断ったらいいよ)」と答えたそうだ。
スマートフォンに残された記録からも2人の関係が深くなかったことがうかがえる。スマートフォンには2人で写っている写真が1枚も残されておらず、K也は家の場所さえ教えられていなかったようだ。さらにLINEの記録には、知華の方からK也に対して積極的に愛情を示す言葉は残されていない。友人の見解では、知華は引っ込み思案な性格から、K也の自分勝手なアプローチを上手にかわすことができなかったのではないかということだ。たしかにLINEの記録を見れば、K也から何度も電話がかかってきて知華が折れたように応じたり、好きだと言われて自分の感情は示さないものの「ありがとう」と答えたりしている。こうした態度が、K也を勘違いさせてしまったのだろうか。
知華の親友は言う。
「知華が好きだったのは(2年生の)B男君だったから、K也とは付き合っていなかったと思います。むしろ断れなかったんじゃないかな。K也は断られたら、周りの人間に知華の悪口を言い回るようなタイプです。知華はそれをわかっていたから、嫌だと言えなかった。それで付き合ったことにされたか、一部の人には付き合っていると言わざるをえなくなったんだと思います」
「別れたい」と悩みを友人らに打ち明けていた
教室で普段から乱暴な言葉が飛び交うのを聞いていれば、K也からのアプローチを断れば何が起こるかわかる。そうした背景もあり、知華は自分の意志を口にすることができなくなっていった。
事実、知華はK也に近しい人には交際を認める一方、自分が仲のいい友人にはK也から送られてくるLINEのメッセージを見せて「助けて」と言っていた。「気持ち悪い人がいる。彼氏でもないのに彼女と言いふらしたり、Twitterに書き込んだりしている」と語ったこともあった。心を寄せる相手がいながら、つきまとうK也との関係を切れずにいたのは、思春期の女の子にとって相当苦しかったはずだ。
事件のきっかけとなる出来事は、新学期から1カ月半が経った5月16日に起こる。
この頃、知華はK也に付きまとわれることにかなり気が滅入っていたようだ。前日に、彼女は友人らにK也と別れたいという悩みを打ち明けている。
16日の授業が終わった後、知華は19時頃に学校の近くにあるコンビニで母親と待ち合わせをしていた。店の前には、心を寄せているB男が友達3名と一緒に動画を撮って遊んでいた。
「彼氏がいるのにありえん!」
「知華ぁ!」
友達の1人が動画を撮りながら声をかけた。知華は髪をいじりながら何げなく顔を向けたが、話し込むわけでもなく、数分して迎えに来た母親とともに帰宅した。
この日の深夜、知華はK也からかかってきた電話に出たり、コンビニの前で会ったB男とLINEのやりとりをしたりした。この頃、B男の友人がコンビニの前で撮った動画をインスタグラムのストーリーズにアップしていた。
翌17日、知華はいつも通り学校へ行ったが、教室にはいつもとは異なる空気が流れていた。朝読書の時間に、A子が友人二人をつれてトイレへ行き、前日に2年生がアップしたインスタの動画を見せた。A子らはトイレから帰ってくると、周りに聞こえるような声で知華に悪態をつきはじめた。
「彼氏がいるのにありえん!」
A子は、知華がB男と一緒に映りこんだインスタを目にして、K也という恋人がいるにもかかわらず、2年生のB男と遊んで浮気をしていると言いだしたのだ。それは瞬く間にクラス中に広まり、知華に白い目が向けられるようになった。
クラスの騒ぎはエスカレート
1時間目の国語の授業でも、教室のざわつきは収まらなかった。A子は遅刻してきたK也にもインスタの話をし、一緒になって浮気を疑った。この時には、授業中にもかかわらず、あちらこちらで口汚い言葉が飛び交っていた。
休み時間には、A子が改めてK也にインスタを見せて「これどう思う」と意見を求めた。知華を問い詰めるつもりかK也も「2年生男子を集めてもいいよね」と答える。
二時間目になると、クラスの騒ぎはエスカレートした。悪意が全体に広まったかのように、「何回言ってもわからん」「視界から消えればいいのに、まじ無理」「言われたくないなら死ねばいい」「嘘つくくらいならわかれたらいいやん」「私なら学校来れん」といった言葉が飛び交った。
この時A子は「死ね」「うちなら学校来れんわ。まじでよく学校来れたやん。別れた方がいいんじゃ」「男遊びしたいなら男遊びすればいいけど、彼氏がいるなら彼氏を大事にせなんやん」「男好き」といった発言をしている。
こうした過激な言葉は、知華の耳にどう響いていただろうか。同級生の証言では、黙っていたというから、なんとか聞こえないようにしていたのかもしれない。
二時間目が終わって休み時間に入ると、A子とK也は友達数名を伴って、知華を連れて二年生の教室へと向かった。K也は、動画をアップした二年生を見つけ出し、事情を問いただした。「たまたま(写っただけ)ですよ」という説明を受けるが、K也は重ねてB男に知華と一緒に帰っているのか尋ねた。B男は答えた。
事実を説明しても信じてもらえず
「一緒には帰ってない」
その場にいた別の人間が「それなら、(知華に)確認したら?」と言った。K也は知華にそうなのかと尋ねた。知華は言った。
「ママを待っとっただけ」
B男と知華がそろって否定したのである。本来はこれで一件落着するはずだったが、事態が収まることはなかった。
三時間目の数学の授業がはじまると、自分の誤解で終わらせたくなかったA子らが再び、「あいつだけ離れておったやん」「視界から消えて」などと言いだした。その場にいた同級生ははっきりとA子らが「絶対嘘やろ」「死んでほしい」「視界から消えてほしい」などと言っているのを聞いている。
後に、授業をしていた教師は、こうした暴言の内容はほとんど聞き取れていなかったと証言している。教師にとっては、荒れたクラスのいつものおしゃべりに過ぎなかったのかもしれない。
だが、知華にしてみれば、事実を説明しても信じてもらえず、いつ終わるとも知れない精神的苦痛のどん底に突き落とされたことを意味する。学校に来れば罵詈雑言を浴びせられ、SNSでは24時間にわたって何をつぶやかれているかわからない恐怖に苛まれる。17歳の彼女にしてみれば、未来が真っ黒な泥で塗りつぶされたのも同じだっただろう。
「ネズミが逃げるぞ」「ガイジが逃げるぞ」
3時間目が終わり、休み時間になると、さらにA子らの罵倒は大きくなった。クラスの1人が心配になったのか、こうつぶやいた。
「今はいじめで逮捕されるらしいやん」
A子が答えた。
「逮捕されるくらいならうちが自殺する。死んだがましやん」
クラスメイトたちはそれを聞いて一斉に笑った。追い詰められた知華の耳には、その言葉が決定打になってしまったのかもしれない。A子が半永久的に自分をいじめると宣言しているように聞こえたのではないか。
親友は振り返る。
「この日私は遅刻したんですが、すでにクラス中でひどい言葉が飛んでました。途中まで知華もがんばってたんですが、3時間目には顔を上げることもできなくなってずっと机に顔を伏せて泣いてました。それで休み時間に私が声を掛けたら、『頭が痛いけん。帰りたい』って言ったんです。私が知華を担任がいる家庭科室まで連れていこうとすると、教室中から『ネズミが逃げるぞ』『ガイジが逃げるぞ』って声が飛び交いました」
その後、知華は教員に頭痛がするので早退したいと告げる。教員は一度だけ「何かあったとね」と尋ねたが、知華が否定すると、それ以上聞かずに早退を認めた。
帰宅後、ネットで自殺の方法を検索し…
12時前、家にいた祖母が車で迎えに来た。知華はそれに乗って帰宅。祖母が涙目になっているのに気がついて事情を尋ねたが、知華は頭が痛いとしか答えなかったので自宅にもどった。
それからおおよそ1時間、知華が何を考えていたのかはわからない。だが、スマホで自殺の方法を検索していたことが後で判明する。そこには首吊りの仕方として次のように記されていた。
〈この方法が一番お手軽で、どこのご家庭でもできますので人気があります〉(※現在、サイトは削除)
教室で浴びせられた言葉もそうだが、彼女が最後に閲覧した言葉さえ、人間の心の痛みや命の重みを何一つ考えずに書かれた、あまりに軽いものだった。
そして彼女は冒頭の遺書を書いた後、台所の取っ手に縄跳びの紐をくくりつけて縊死したのである。
第一発見者は隣に暮らす祖母だった。様子を見に来たところ、知華が首を吊っているのを発見。すぐにハサミでヒモを切り、119番通報したが、意識はもどらぬまま、翌18日の午前3時45分に死亡が確認された。
謝罪さえ来ない加害者生徒
事件後結成された熊本県いじめ防止対策審議会は関係者に聞き取り調査を行い、民事裁判や刑事裁判における因果関係の判断とは異なると留保しつつ、次の5件についていじめだったと認定した。
(1)A子がK也にインスタを見せて「これどう思う」と言ったこと。
(2)K也が「2年生男子を集めてもいいよね」と言ったこと。
(3)2時間目の授業でクラスメイトが数々の暴言を吐いたこと。
(4)K也が2年生にインスタに映り込んだのが偶然かどうか確認したこと。
(5)2年生に対して女子生徒らが再確認したこと。
だが、遺族によれば、事件後の生徒や教員の反応を見る限り、A子を死に追いやったことをどこまで深刻に受け止めているか甚だ心許ないという。
父親の智彦は語る。
「今、民事裁判でA子やK也を訴えてますが、罪を全面的に認めて謝罪するということにはなってません。彼らにしてみれば、自分たちの言動は、知華を自殺に追いやるほどのものではなかったという認識なんではないでしょうか。日常的に教室でつかっていた荒れた言葉でからかっただけで、なんで自分がそこまで大きな罪を背負わなければならないのかという感覚なんだと思います。彼らは謝罪にさえ来ませんから」
SNS時代の耐え難いまでの言葉の軽さ
調査報告書でいじめが認定されても、A子は今に至るまで一度も正式に遺族のもとに謝りに来てはいない。K也もまた、事件後家に来た時、自分が知華に投げ掛けた言葉については語らず、他の生徒の言動がひどかったという話をするだけだったと遺族はいう。
飛び交う言葉も、人間関係も、何もかもが希薄だと言える。
デジタルネイティブの世代のいじめは、それ以前のものとは全く異質で、非常に軽薄で鋭利な言葉が仲間内のなかで悪意を帯びて先鋭化しやすい。加害者はネットに誹謗中傷を書き込む人間と同様に罪の意識なく暴言を吐き散らし、それは同級生の間で炎上する。生徒の苦痛は学校内に留まらず、SNSによって365日、24時間つづく。
加害者側も教員もその深刻さに気がついていない。彼らが使用するのは今の世の中では一般的な言葉であり、誰もが使うコミュニケーションのツールなのだ。どこまでいけば高リスクなのかを判断する明確な基準もなければ、SNSの使用を禁ずることもできない。だからこそ、被害者の子供は誰に、どのように助けを求めていいのかわからないまま、最悪の事態へ追い込まれていく。
SNS時代の耐え難いまでの言葉の軽さに社会はどう向き合い、子供たちの心を守るかが今問われているのではないだろうか。
智彦の言葉である。
これから長い間、大きな苦しみと孤独の中で闘っていくことに
「事件から3年以上経ったいまも、知華のことを思い出さない日はありません。親として娘を守ってあげられなかった自分たちをどれだけ責め、泣いたか分かりません。
いじめは、人の命を奪うほどの凶器になります。あの日、知華がどれほど傷つき、苦しんだか、その無念を晴らしたいという気持ちで訴訟することにしたのです。遺族は、加害者側の主張を聞かされるだけで気が狂いそうなほどたまらない気持ちになります。でも、加害者だけでなく、世の中全体がいじめの問題を深刻に捉えていないという現実を目の当たりにすると、本当に心が折れそうです」
なお、今回の訴訟に関して、A子側は一部の悪口を発したことは認めて哀悼の意を示しているが、それが自殺の直接的な要因となったことについては認めていない。K也側に関しては、当日の行動は知華を助けようとしてやった行為であり、一切の法的責任はなく、加害者として訴えるのは名誉棄損だと反論している。私は真意をたしかめるべく、弁護士を通して2人に取材を申し込んだが、断られた。質問状を送って、再度本人の見解を聞きたいと打診したが、書面での質問にも無回答だった。
民事裁判はまだはじまったばかりだ。遺族は、これから長い間、大きな苦しみと孤独の中で闘っていくことになる。
◆◆◆ 【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】 ▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4 時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時) ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県 により異なる) ▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県 からは0120-279-226(24時間対応)
(石井 光太/ライフスタイル出版)