関東4県の寺で窃盗被害2億円…「手元に現金ないと業務回らない」悩ましい防犯対策

群馬、埼玉、茨城、栃木の4県で昨年以降、寺院で窃盗被害が相次ぎ、被害総額は約2億円にのぼる。寺の多くは現金を保管するが、防犯カメラを設けておらず、窃盗グループはその隙をついたと県警はみている。だが、寺は来る人を拒まないところで、防犯カメラは似合わない。景観の維持も大事だ。寺の防犯対策は悩ましい問題を抱えている。(桜木優樹、飯田尚人)
「泥棒が入るなんて想像もしていなかった」。昨年11月に被害に遭った群馬県伊勢崎市の寺院の男性住職(50歳代)が肩を落とした。
男2人が侵入したのは午前3時頃。本堂南側の窓ガラスが割られ、事務室などの棚や金庫が荒らされた。古い木枠の窓ガラスは厚さ5ミリほどで、鍵付近の1枚だけがきれいに割られていた。非常通報装置は付けておらず、気づいたのは起床後だった。
事件の後、防犯カメラを4台設置し、本堂の雨戸を常に閉めるようにした。住職は「無防備だった。今後は寺も防犯を真剣に考えないと……」とこぼした。
寺院の本堂や併設する住居で金品が盗まれるなどの被害は、昨年から今年1月にかけて4県で100件以上確認された。4県警の合共同捜査班は2月、窃盗未遂容疑などで県内外の男5人を逮捕し、一連の事件への関与を調べている。捜査関係者によると、5人の関係先からバールやドライバーなどが見つかったが、寺院の被害は5人の逮捕後も散発的に起きており、ほかにも複数の仲間が窃盗や侵入を繰り返しているとみている。

ある捜査幹部は「寺ならではの事情に目をつけたのかもしれない」と話す。寺は防犯対策が手薄である一方、まとまった額の現金を置いてあることが多いためだ。寺の中には数千万円の被害に遭ったところもあった。被害に遭った寺のうち、県内の9寺院に取材したところ、すべてで防犯カメラを付けていなかった。
県仏教連合会(前橋市)などによると、寺には歴史的な建築物が多く、住職らは景観を損ねたくないとの思いから防犯カメラや非常通報装置の設置を好まない。参拝客や長年のつき合いがある

檀家
(だんか)が訪れ、経済的に困窮した人の「駆け込み寺」という側面もある。同会の松本

泰恵
(たいけい)会長は「僧侶には万人を受け入れる考えが根付いている。防犯カメラで来訪者を監視する意識はそもそもない」と話す。
寺院の収入は檀家からの寄付や供養の際に受け取るお布施などが、支出は法要の際のお香や菓子の代金、墓地の清掃代などがあるが、いずれも現金で手渡しされることが多い。葬儀の日程も急に入ることが多く、被害に遭った住職は「手元に現金を置いておかないと業務が回らない」と話す。住職の高齢化で、スマートフォンなどを使った電子決済を敬遠する人も少なくない。
全国105の伝統仏教宗派などでつくる全日本仏教会は「窓ガラスにガラスを強化する防犯フィルムを貼ったり、雨戸を本堂と同じ色に合わせたりして、景観や寺の役割を守りながら防犯対策を強化することもできる」と呼びかけている。