私の持論に「世の中が乱れると、東京スポーツと朝日新聞の見出しが同じになる」というのがある。新聞はキャラが違うからおもしろいのに一般紙も東スポも一面の見出しが同じになったらいよいよ深刻なのだ。
私がこれまで最も印象に残っているのは1995年3月20日のオウム真理教による地下鉄サリン事件からの一連の報道だった。
オウムは自分の組織に「外務省」とか「大蔵省」などと省庁の名前を付けていた。子供じみていた。しかし、ひとたび凶悪なテロ事件を起こすと『オウム科学技術省がサリン製造か』という見出しが朝日や読売にも掲載されたのだ。衝撃だった。事件を起こしたことで、まぬけに思えたネーミングもふつうに報じられ始めた。東スポがおどろおどろしく書いていたものが一般紙も同じように報じざるを得なくなってしまった。ただただ深刻さを感じたのである。オウム科学技術省って何だよ……。
東スポが報じなければ「まだ安心」
逆パターンもある。一般紙では深刻な見出しが続くときでも東スポが全然違うネタを報じているときは「まだ安心」と思える時がある。一種の自由さのバロメーターでもある。
たとえば今回のロシア報道はどうか。2月末にプーチンがウクライナ侵攻をすると、一般紙だけでなくタブロイド紙(日刊ゲンダイや夕刊フジ)も騒然となった。キオスクでの広告を見てみよう。
2月24日(木)
『ウクライナ非常事態宣言 首都攻撃も』(夕刊フジ)
『緊迫 バイデンお手上げ 勝算高笑い』(日刊ゲンダイ)
写真はどちらもプーチンの顔を大きく載せている。緊迫している様子がわかる。
一方、東スポは『森咲智美 魅惑のメンズエステ』だった。まだ大丈夫だ。
2月28日、東スポの“日常”は変わらない
2月28日(月)
『核兵器準備も指示 失脚焦り』(夕刊フジ)
『誤算続々 ウクライナ攻略 激怒』(日刊ゲンダイ)
プーチン怒りの表情の写真。では東スポはといえば、
『宇宙人カラオケ大会』
まだ大丈夫だ。東スポの日常は変わらない。
ちなみに宇宙人カラオケ大会とは配信番組のことで《オリオン星人、アンドロメダ星人、レプティリアン、シリウス星人など、多種多様な宇宙人が登場し、ステージ場で地球のヒット曲を熱唱したのだった》という。スケールの大きさに和む。
3月7日(月)
『裏切り続出 内部崩壊』(夕刊フジ)
『ゼレンスキー 亡命政府樹立計画』(日刊ゲンダイ)
フジはプーチン、ゲンダイはゼレンスキーの顔写真。では東スポは……。
『化け猫妖怪抗争』
同じ「抗争」でも化け猫が一面奪取だった。「魚の目玉を取り合いか」という見出しが躍る。東スポは昨年11月に『妖怪ケンムン実在したのか 徳之島へ急行』と報道していて、今回も同じ徳之島で奇怪な現象が起きていると伝える。つまりこだわり案件なのである。新聞は各紙の記事が違えば違うほど平和さを感じる。
3月9日、東スポ紙面に異常あり
潮目が変わってきたのはこの翌々日あたり。まず一般紙の一面を確認しよう。
3月9日(水)
朝日『ロシア 国境の全軍投入』
読売『露、再び「人道回廊」宣言』
毎日『人道回廊開設 避難始まる 仏独中首脳は会談』
依然として深刻な記事で埋められている。これが現実だ。この日のタブロイド紙はそんな気分を拡大し、
『プーチン逆上 皆殺し危機』(夕刊フジ)
『ロシア発 金融パニック』(日刊ゲンダイ)
と煽る。そして東スポは、
『プーチンの核ボタン強奪へ』
東スポもプーチンを一面に持って来た。ここから一気に変わった。翌日は、
『プーチン愛人とぎっくり腰』(3月10日)
プーチンネタでもどこかまだ可笑しい。説明すると、この頃はプーチン大統領の精神面の変化についての報道が世界で相次いでいた。そんななか東スポは「ぎっくり腰が原因か!?」ときたのだ。
大胆すぎる“見立て”で勝負
「ハンググライダーに乗った時に腰をやった」「元体操選手の若い愛人とハッスルしすぎたのもあるかもしれません」という軍事ジャーナリストのコメントをもとに「痛み止めを乱用レベルまで使いすぎると、依存症など精神に影響をきたすこともある」という見立ての東スポ。
夕方に出る新聞は朝刊と切り口が同じだと誰も話題にしてくれない。「プーチンの精神面の変化」というお題がトレンドになると東スポは「愛人とぎっくり腰が原因」と勝負してきたのである。これもまた新聞のつくり方、読み方である。
そのあとは『プーチン暗殺へ 元スゴ腕スナイパー潜入か』(3月11日)、『プーチン 4・3生死Xデー』(3月14日)とおどろおどろしい路線へ。
そして3月17日の一面に注目。
『プーチンをロケットで木星に飛ばせ!!』
てっきり東スポが飛ばしてるのかと思いきや、ネタ元はウクライナ副首相のツイートだった。ユーモアと毒をまぜた寄付呼びかけ作戦を拡大させていると伝える。こうなってくると現実と東スポ的世界が渾然一体となりだしていることがわかる。
現実が「東スポ化」する異常事態
こうしてここ約1か月の報道を追ってみると興味深いことがわかる。他紙がウクライナ侵攻で騒然とするなか東スポは独自路線を歩んでいたが(妖怪抗争など)、3月中旬になると同じくロシア一面が多くなってきた。だがマイペースは崩さず『プーチン愛人とぎっくり腰』などの独自の切り口でさばいていた。
ところが最近は『プーチンをロケットで木星に飛ばせ!!』など東スポ発信かと思いきや、現実に政治家が言っていることだった。独自の切り口をつけずとも東スポが現実を「そのまま伝える」だけで今がいかに非日常なのか実感できるのだ。
とはいえ東スポの見出しにはまだ「余裕」を感じる。30年以上読んでる実感です。湾岸戦争時には「フセイン インキン 大作戦」という歴史的な一面もあった。なのでなんとか大丈夫だと思いたい。
本当にヤバくなるとそろそろ「世の中が乱れると、東京スポーツと朝日新聞の見出しが同じになる」となります。
あ、朝日や読売の一面に「プーチン、木星に飛ばされる」なら別にいいけど。
(プチ鹿島)