犯罪被害者支援、国に要請へ 「あすの会」再発足

犯罪被害者の権利確立のため活動し、平成30年に解散した「全国犯罪被害者の会(あすの会)」が「新あすの会」として再発足することになり、東京都内で26日、創立大会が開かれた。代表幹事の岡村勲弁護士(92)は、犯罪被害者や遺族に対する経済的支援などを国に要請するとした上で「被害者らが安心できる制度を一日も早く作ることが必要だ」と述べた。
12年に発足したあすの会は、犯罪被害者や遺族らで構成。犯罪被害者の支援・保護を国策として行うことを定めた犯罪被害者等基本法の制定に尽力した。「一定の役割を終え、会員が高齢化している」などを理由に30年に解散したが「支援の状況が今も改善されていない」と再発足を決めた。
岡村弁護士は「加害者の更生などのための予算は手厚いが、被害者は厳しい生活を強いられていることもある」と指摘した。
大会には、長野県の自宅で令和2年5月、面識のない暴力団組員に長女=当時(22)と次男=同(16)=を殺害された市川武範さん(56)も参加、自身の経験を語った。
自宅に乗り込んできて発砲し2人を殺害した組員は、その場で自殺。市川さんは、自宅から転居しようと公営住宅への入居を希望したがかなわず知人を頼り住む場所を確保したことや、事件後の対応にかかった費用がほぼ自己負担だったことなどを明かし、「犯罪による被害を回復できる制度を作ってほしい」と訴えた。
賠償金立て替えも
犯罪被害者の経済的支援をめぐっては、国からの犯罪被害者等給付金のほか、犯罪の刑事裁判を行ったのと同じ裁判所が審理し、加害者側に賠償を命じる「損害賠償命令制度」がある。ただ、加害者側に支払い能力がないなどの理由で十分な賠償がなされないことも多い。
日本弁護士連合会が平成30年に実施した調査によると、同制度や民事訴訟などを通じて被害者側が賠償を受けられることになった342事件のうち、加害者が所在不明だったり、支払い能力に問題があったりするなどの理由で賠償が受けられなかった、一部しか受けられなかったケースは計43%に上った。
こうした状況を受け「新あすの会」が提言するのが、加害者に対する損害賠償債権を国が買い取って被害者への賠償金を立て替え、後から国が加害者から取り立てる制度の創設だ。実際に、こうした制度を運用している自治体もある。
兵庫県明石市は平成26年、被害者側から賠償請求権を譲り受けた上で「立替支援金」を支給し、その分を加害者側に請求する仕組みを全国で初めて導入した。犯罪に巻き込まれて死亡した人の遺族や重傷を負った人、性犯罪の被害者に、300万円を上限に支払う。
弁護士資格を持つ泉房穂市長は「国や行政が役割を果たさないことで、被害者や遺族が二次被害、三次被害を受けることはあってはならない」と強調する。(塔野岡剛)