―[言論ストロングスタイル]―
◆「ウクライナはさっさと降伏しろ」と言い出す御仁がいる
ロシアがウクライナに侵攻した。ウクライナは激しく抵抗し、双方の犠牲者が増大している。特に国土が戦場となったウクライナでは多くの民間人が死傷し、女子供老人は避難民として生まれ育った故郷を捨てて逃げざるを得ない。
一部には留まる人もいる。まだ戦場になっていない土地の人々だけではない。当たり前だが、避難民となるには、今までの生活も、財産も捨て、持てるものだけを持って逃げるしかない。悲惨な光景だ。
こうした悲惨さをやめさせる為に、「ウクライナはさっさと降伏しろ」と言い出す御仁がいる。その手合いがロシア大統領のウラジーミル・プーチンにモノ申したという話は聞かないのは不思議なことだ。
学校でたとえよう。いつも揉め事を起こしている者どうしが喧嘩を始めた。どうやら背が高くて力が強くて金を持っていてずる賢い方が「お前は生意気だ」と殴りかかったらしい。誰も止めない。しかし、小柄な方は必死に耐えて、時に殴り返している。その小柄な生徒が一切の抵抗をやめて謝れば、許してもらえるのか? 考えるまでも無い。日本でいじめ問題が後を絶たないはずだ。
◆殴り返さない方が偉いという愚かな価値観
日本国憲法に毒された愚かな価値観がある。「どんなに殴られても殴り返さない方が偉い」。バカか?
思い出しても見よ。なぜ日本が世界で唯一の被爆国か。第二次大戦末期、日本の敗色は濃厚だった。連合国は既に戦後秩序を見据え、アメリカ・ソ連・イギリス・フランス・中国を五大国とする新秩序が形成されつつあった。そんな中で、原爆投下は行われた。非人道兵器である原爆の使用、しかも先制使用は、議論の余地なく国際法違反である。さらに、軍事目標と区別しない都市への無差別爆撃による非戦闘員の殺傷からして、国際法違反である。軍事的には何の意味も無い殺戮である。
ところが、アメリカの所業は国際法違反とされなかった。なぜか。どこからも抗議が来ないからだ。
◆九条は精神的に去勢された成れの果て
五大国は全員がアメリカの同盟国なので、アメリカの悪行を咎めだてはしない。何より、日本に抵抗力が無かった。都市への無差別空襲と非人道的兵器の使用によって、日本は連合国のポツダム宣言を受け容れざるをえず、降伏を余儀なくされた。本当は有条件降伏だったが、軍隊が武装解除され、アメリカ以下連合国のポツダム宣言その他国際法への違反を制裁する力を無くしていた。
そして、長きに渡った占領により、アメリカ以下連合国の国際法違反を訴える力さえ奪われた。いつのまにか洗脳、精神的に去勢されてしまったのだ。その成れの果てが、九条に代表される日本国憲法の精神、「どんなに殴られても殴り返してはならない」だ。この思想がどれほどの無辜の民を苦しめてきたか。
教育現場ならば、教師がなすべきは何か。絶対にやってはならないことは、「殴られても絶対に殴り返すな」ではなく、「自分の身は自分で守れ。ただし、過剰防衛はよろしくない」だ。そもそも、「挑発もされないのに、先に手を出すな」を叩きこむべきだ。そしていざ諍いが発生したら、ただちに割って入って殴り合いをやめさせる。その上で、原因がなんであったかの真相を究明する。悪いのは先に殴った方ではない。挑発し、原因を作った方だ。「どんなに殴られても殴り返してはならない」は、何の解決にもならない。
◆「プーチンを権力の座に留まらせない」発言のポンコツさ
余談だが、最近アメリカで、妻を侮辱された俳優が、侮辱したコメディアンを平手で殴った。「先に殴った方が問答無用で悪い」にはならない。殴られたコメディアンの方が、明らかに「挑発」をしたからだ。しかも平手を一発だけだったので、過剰防衛ではないとも言える。
この原理は、国際法も同じである。現在、ロシアは侵略(aggression。前回の「宣戦布告がないのに、軍事衝突はある。これは紛争か、戦争か」で解説の通り、正確には侵攻)を行ったと国際社会から批判されている。侵攻とは、挑発もされないのに、先制武力攻撃を行うことだ。プーチンは色々と言い訳をして「ウクライナが先に挑発してきた」と言っているが、国際社会の圧倒的多数は「それは挑発と認められない」と評価している。
一方で、アメリカのジョー・バイデン大統領も相当のポンコツだ。ポーランドに行ってロシアの国際法違反を片っ端からあげつらうまでは良かったが、「プーチンを権力の座に留まらせない」とまで発言した。さすがに同盟国の英仏が「我々は知らん」「いい加減にしろ」と呆れられていたが、アメリカ政府の高官も火消しに必死だった。
それはそうだろう。プーチンを「挑発もされないのに手を出した」と批判しているのに、バイデンがプーチンを挑発してどうする?
◆今の事態は中立義務の発生する「戦争」ではないと言い張る
それでも相手が核兵器を持たない小国相手ならば、アメリカ主導で多国籍軍を編成、侵略をやめさせ政権を打倒する、くらいはやれるからいいだろう。事実、(かつてイラクのサダム・フセイン相手にそれをやった。しかし、相手は核兵器を保有する大国だ。下手な立ち回りをすれば第三次世界大戦になりかねない。
だから「表立ってウクライナと一緒に戦う」以外のあらゆる手段を使っているのであり、表向きは中立を装っている。そもそも、今の事態を中立義務の発生する「戦争」ではないと言い張っているのだ。
バイデンは、つくづくポンコツだ。このように国際社会では、武力・財力・知力のあらゆる手段を使って駆け引きが行われている。情報戦もそうだし、国際法も自分の身を守り、敵を攻撃する武器なのだ。ただし国際法は、自らの身を守れない者を保護してくれない。
◆ウクライナがロシアに降伏して、何かいいことがあるのか
さて、ウクライナがロシアに降伏して、何かいいことがあるのか? 自分を殴っている相手に自らの生殺与奪の権を委ねる。殺されるだけではないか? 国が殺されるとはどういうことか。男は奴隷にされる。現に、ロシアに捕まったウクライナ人の少なからずがシベリア送りにされている。女は犯される。降伏するとは、殺され、犯され、奴隷にされることなのだが、それでいいのか?
事実、プーチンはそれを実行してきた。そんな国が日本の隣にある。
では、どうするか?
殴られないようにするには、軍事力をつけるしかない。ドイツは「防衛費をGDP2%にする」と宣言したが、最低の数字だ。それを可能にする経済力もつけねばならない。
何より知力。殺されないようにするにはどうすればいいか、考えよ。
【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売
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