京都大医学部付属病院は12日、血液型がO型の10代の女性患者に、B型の父親とO型の母親(ともに40代)の肺の一部を移植したと発表した。病院によると、血液型が異なる生体肺移植は世界初。移植手術は2月16日に行った。術後の経過は良好で、女性は4月11日に退院した。
血液型が異なる患者と臓器提供者の間での生体移植は、腎臓や肝臓で多く実施されているが、肺は他の臓器に比べて拒絶反応や感染症を引き起こしやすいため、実現していなかった。
病院によると、女性は関東地方在住。幼少期に白血病になり、骨髄移植などを受けた影響で、閉塞(へいそく)性細気管支炎を発症。2021年9月には、人工呼吸器が必要になるほど悪化していた。このため、病院は緊急性が高いと判断し、生体移植に踏み切った。女性の場合、肺の提供者が2人必要だったため、血液型が異なる父親からも提供を受けた。
白血病の症状が治まっていることを確認した上で、拒絶反応を防ぐため、手術の約3週間前から投薬などの処置をした。術後は急性の拒絶反応があったもののステロイド治療で回復。人工呼吸器や酸素療法は不要になり、歩けるようになったという。
執刀した伊達洋至教授(呼吸器外科)は「拒絶反応の兆候もあり、慎重に管理しないといけないと感じた。(血液型不適合の生体肺移植は)他に方法がない場合にのみ行う手術だと考えている」と話した。宮本享病院長は「リスクはあるが、移植医療の新しい扉をあけられると考え、推進した」と述べた。
日本移植学会や同病院によると、国内でこれまでに実施された970例以上の肺移植のうち、約7割が脳死移植。ただ、移植を受けるまでの待機時間が平均870日間と長期化しており、待機中の死亡率は4割を超えるという。同学会の江川裕人理事長は「肺で血液型不適合生体移植の成功例が積み重なると、保険適用という道が開ける。間に合わずに亡くなる患者が減ることを期待できる」と評価した。【菅沼舞、田畠広景】