「『生娘』も悪代官的で…」吉野家常務「生娘シャブ漬け」発言に“戸惑う”新聞各紙、東京スポーツはどう報じた?

新聞各紙は吉野家常務の「生娘シャブ漬け」発言をどう報じたか。新聞読み比べをライフワークとする私が、1週間追ってみました。
まずは事のあらましをふりかえろう。早稲田大の社会人向けマーケティング講座で伊東正明常務(49)が「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘な内に牛丼中毒にする。男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」「生娘をシャブ漬け戦略」などと“講演”して大炎上(そのあと解任)。
ひどすぎる発言にNHKは躊躇したのか、「地方から出てきたばかりの若い女性が薬物中毒になるような企画を考えて欲しいという趣旨の発言をしました」と報道。表現を丸めすぎて逆にわかりづらくなっていた。聞けば聞くほどわからない。
「シャブ漬け」に眉をひそめる一般紙
では新聞各紙はどうだったか。紙面で確認してみた。すると第1報では各紙正確に「シャブ漬け」を載せていた。事実を伝える報道としてやはり当然なのでしょう。しかし見出しでは「若い女性を薬物漬け」(東京新聞4月19日)としたり、第1報以降は「若い女性を牛丼好きにする方法について、薬物中毒を連想させるような表現を使っていた」(毎日新聞4月20日)としたり、やはり一般紙は「シャブ漬け」という表現には眉をひそめ、できるだけ使いたくないという行間を感じました。
私は「シャブ漬け」という発言には、自分の知らない世界の言葉をあえて使ってイキがってみせる姿が想像できて、ああこういう人苦手だわぁと感じた(もしこの常務が実際にその世界の方でしたら謝罪します)。でも反社もそんな言葉使わないみたいな言説もあるので、それならなおさら恥ずかしい言動ではないか。
あと「生娘」(きむすめ)という言葉に違和感を抱いた人も多かっただろう。特に若い世代では読み方がわからない人もいたのではないか。でも知らなくてもいいんです。その理由をスポーツ報知の野球コラム「仙ペン」が書いていた。
《「生娘」も悪代官的でセンスを疑われるけど、》(4月20日)
そう、時代劇の悪代官しか使わないので知らなくても大丈夫です。テストにも出ないから安心してください。それにしても伊東正明氏はまだ40代だがこういうカギカッコ付きの「おじさん」は年代問わずに棲息するんだなぁと痛感する。
その場のウケを狙う「おじさんの持病」
興味深い証言もある。伊東氏を勉強会に呼んだことがある業界団体の幹部は「(当時は)話が面白く好評だった。こんなことになり驚いている」と話していた(信濃毎日新聞4月20日)。この証言に納得した。その場のウケを狙うがあまり、差別や偏見さえ“おもしろ”として発動するのは、昨年の森喜朗先生の「わきまえている女性」発言などからもわかるように「おじさん」の代表的な持病なのである。
この信濃毎日新聞記事の見出しは「ジェンダー配慮 企業の対策急務」「女性管理職少ない風土も影響か」。
《吉野家と吉野家HDも取締役のうち、女性は社外出身の1人だけだった。多様な価値観の尊重は、多くの企業に共通する課題でもある。》
やはりこの点にも行き着くのだろう。
あと若い女性を早く牛丼中毒にしないと「男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」という部分もギョッとします(結局ぜんぶギョッとするのだが)。
「まるで自社の牛丼がおいしくないかのような言い方で、ファンに非常に失礼」というコンサルタントの感想もあった(朝日新聞4月20日)。
吉野家の“中の人たち”はどう考える?
伊東氏は生活用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身で、2018年に吉野家に移った。吉野家のほかにも顧問契約などをしていた。ここで気づくのは、新しく来た人が古い「顧客」や「商品」を軽視したうえで「改革」でやらかすというのは吉野家以外にもよくある風景なのではないか?
ファンに失礼というのはその通りで、ファンだけでなく吉野家の牛丼にプライドを持っている社員や従業員の“中の人たち”は今どう思ってるのだろう。気になって仕方ない。「やっぱりあいつかよ」と言われてないだろうか。ただ、吉野家が2018年に伊東氏をありがたく迎えて4年間商売してきたのは事実だ。だからこれはやはり「吉野家の問題」なのである。
この構図って 先日の朝日新聞と峯村記者問題 に似ている。朝日新聞・峯村記者が安倍元首相の「顧問」を名乗り、他社の雑誌である「週刊ダイヤモンド」のインタビュー記事に介入しようとした件。あんなことされて他の朝日の記者はどう思っているのだろうと気になるのだが、一方で峯村記者個人の問題ではなく徹底して「朝日とジャーナリズムの問題」だと私は考える。なので検証記事が読みたいのだ(まだ出てませんが)。
さて今回の件を新聞コラムはどう書いたか。
東京新聞はいきなり添削指導!
朝日の「天声人語」は、
《わが人生で吉野家の牛丼を幾度食べたことか。駆け出し記者のころも米国や香港など駐在先でも繁く通った。モットー「うまい、やすい、はやい」はまさに記者の味方だった》(4月20日)
さりげなく庶民派アピールしている天声人語師匠。
東京新聞の1面コラム「筆洗」は、
《「初めて東京で生活される若い女性をターゲットに当社の商品を継続して買っていただけるような企画」-▼元の発言を赤ペンで修正しながら、例えば、こんな発言なら、騒ぎにはならなかっただろうにと考える》(4月20日)
いきなり赤ペンで添削指導!
途中からは《「うまい、安い、早いの三拍子」の吉野家だが、その発言は「差別、侮蔑、暴力的」と世間を騒がせる三拍子がそろっている。》
なんだか波に乗ってきたようだ。締めは以下。
《「やったね、パパ、明日(あした)はホームランだ」-。吉野家の古いCM。常務は解任されたそうだが、同社にとってはホームラン級の痛手であろう。》
どうしてもうまいこと言いたいようだ。それにしてもやっぱりCMが古すぎる。
東京スポーツはどう報じた?
ではあの新聞にいこう。「シャブ漬け」という言葉が拡散されるなか東スポは1面で、
『最新有名人 シャブ漬け疑惑リスト』(4月22日)。
この流れに乗って吉野家好き有名人リストを並べているのだろう。そう思ったら「当局が内偵」とあったので本当にそっちの記事でした。ワルい記事書いてんなぁ。
以上、吉野家読み比べでした。
(プチ鹿島)