「キャッシュレス元年」から3年。今や高齢者も使いこなす便利な決済手段となった。しかし、手軽に個人間送金ができる機能を利用した脱法行為や詐欺被害も増えていた!
◆家出少女を装うだけでどんどん送金される
キャッシュレス社会は一気に加速したが、普及に比例して、悪用されるケースも広がりつつあるようだ。フリーライターの奥窪優木氏が話す。
「一部のスマホ決済アプリでは、アカウント同士で残高を送受できる個人間送金に対応しています。これが今、SNS上で匿名の取引ツールとして盛んに利用されているのです。最大のユーザー数を誇るPayPayには、『マネーライト』という機能があり、電話番号さえあれば身分証などによる本人確認すらなしに個人間送金が可能になる。便利な半面、詐欺やいかがわしい取引に利用される例が目立ちます」
悪用例のひとつが今、急増している物乞い行為だ。
ツイッター上では今、「#PayPay乞食」なるハッシュタグをつけた投稿が大量に投稿されている。そこには決まってPayPayの送金用QRコードの画像が貼り付けてある。これをアプリで読み込めば、投稿者に“施し”ができてしまうのだ。しかし、見ず知らずの投稿者に送金する人など存在するのだろうか。
◆「1週間で2万円くらいは余裕で稼げる」
「それがけっこういて、儲かるんです」と明かすのは、「LJK(高校3年生の女子の意)」を名乗るアカウントで、投稿を繰り返しているXさんだ。
「JKっていうだけで、いろんな男からめっちゃDMが来る。パパ活の誘いとか下ネタばっかだけど。『いい人がいたら会ってみたいな』とか言ってかわい子ぶってると、男たちが数百円~1000円送金してくれる。DMをまめに返していたら、1週間で2万円くらいは余裕で稼げる。友達もみんなやってますよ」
Xさんは受け取り履歴を見せてくれた。そこには、約2時間の間に7人から計1万4500円が送金されていた。
「これは『家出してお金ないぴえん』って投稿して過去イチで儲かったとき。家出ネタは鉄板で『タクシー代あげるからウチまで来なよ』とか、『これでおいしいもの食べて』とかって送金してくる。連続して投稿すると信用なくすから月1、2回しか使わない」
ちなみに不特定多数に対し、反復的に金銭を無心する行為について、加藤・浅川法律事務所の加藤博太郎弁護士は「軽犯罪法上のこじき行為に当たり、微罪とはいえ違法である可能性が高い」と指摘。ただXさんは「ライブ配信の投げ銭と同じ」と動じない。
◆PayPayを決済手段として動画を売る詐欺も
一方、PayPayを決済手段として、未成年者が自作した児童ポルノを販売しているとみられるアカウントも少なくない。教室内で撮影されたと思われる、セーラー服の自撮り画像を多数アップしているあるアカウントにも、やはり送金用QRコードが投稿され、「自分でしている動画売ります」といった一文が添えられている。価格は「10分2000円~」とある。
こうした動画販売アカウントには詐欺も潜んでいる。
「60分の“モロ見え自撮り動画”の代金として、ある投稿者にPayPayで5000円を支払いましたが、送られてきたのはネットで出回っている古いエロ動画。返金を求めようにも相手の名前がわからず、送金直後にDMもブロックされ、その後アカウント自体なくなっていた。経緯が経緯なだけに、警察に被害届を出すのも憚られます」(関東在住の40代男性)
◆「交通費先払い」で消えるパパ活女子
詐欺はまだまだある。近畿在住の20代の男性は、PayPay送金を悪用した別の手口に引っかかった。
「『PayPayで送金額の2倍を送り返す』と謳っているアカウントがあり、『本当にもらえました』というツイートもたくさんあったのでまず1000円だけ送金してみた。すると数時間後に本当に2000円が返ってきた。『これは本物だ』と思い、次に1万円を送ったのですが、何日たっても2万円が返ってくることはなく、やがてそのアカウントは閉鎖されていました」
さらにツイッター上ではライブやイベントのチケット転売を持ちかけ、代金を騙し取る「チケット詐欺」や、パパ活アカウントによる「交通費先払い詐欺」も横行しており、「送金したのに相手の素性が一切わからない」といった被害報告も数多い。
◆事業者は現状をどう捉えている?
メルペイやLINEペイなど、QRコードで個人間送金が可能なサービスはほかにもあるが、PayPayでの悪用ケースが目立つ理由は、前述のとおりユーザー数(4700万人/4月時点)や使用可能な店舗やサービスが多いことに加え、最も手軽に匿名で送金・受け取りできてしまう点にある。そんな現状について事業者はどう答えるのか。
「指摘の行為に関しては、PayPay残高利用規約の定める禁止事項に該当しており、該当者には慎重に事実確認を行って対処しているとともに対策を強化しています。詐欺行為についても、特設ページで注意喚起を行っているほか、加害者に対しては従来より、捜査機関の要請があれば犯罪者の特定につながる情報の提供をしています」(PayPay広報担当者)
ちなみにツイッターの運営会社にも回答を求めたが、期日までに返信がなかった。
◆金融庁の見解は…
さて、一方で現金とほぼ同じ価値を持つPayPay残高が匿名で取引されている現状について金融庁に聞いた。
「個別の事業者についてのコメントは差し控えるが、『前払式支払手段発行者』として登録がされていれば、払い戻しや口座への出金ができない残高であることを条件に、匿名での個人間送金が可能。前払式支払手段の残高は、いわば商品券扱いで、現金の資金移動とは区別されている」
決済手段の多様化は喜ばしいことだが、利用者がより安心できる仕組みを社会全体でつくることも重要だ。
取材・文/SPA! 電子マネー取材班 写真/Shutterstock.com