「けんしょう炎になるほど書類偽造」給付金詐取事件でリーダー格漏らす

「不正受給で6000万~7000万円を稼いだ」「けんしょう炎になるほど仲間は偽造書類を作った」。家族を中心とするグループが新型コロナウイルス対策の国の「持続化給付金」を不正受給したとされる事件で、リーダー格の谷口光弘容疑者(47)は知人にそう話したという。
名義人となる人物を集めて虚偽申請させ、一部を手数料として受け取る――。光弘容疑者の手口はいたって単純だったが、組織的に1000以上の名義を集めたことが被害を甚大なものとした。不正受給額は計約10億円にのぼり、同一グループによる不正受給額としては過去最大とみられる。
捜査関係者によると、光弘容疑者が不正申請を始めたのは、2020年5月に持続化給付金の受け付けが始まって間もなくのことだった。
光弘容疑者は、長男の大祈(だいき)容疑者(22)と、当時未成年だった次男(21)を三重県から東京都内に呼び寄せた。
元妻の梨恵容疑者(45)を含め親子を中心とする十数人が「誰でもお金がもうかる」と知人に声を掛けたり、ネット交流サービス(SNS)を使ったりしてグループを拡大。約40人の勧誘役が15班程度に分かれ、拠点にしていた港区の事務所やファミリーレストランでセミナーを開くなどし、不正申請のための名義人を増やした。
勧誘役の拠点は、神奈川や大阪、三重にもあったという。
セミナーの会場では参加者に対して勧誘役が確定申告書を配布し、氏名や年齢などを記入させて回収。収入の欄は空欄にさせており、その部分はグループ側がうその数字を書き込んだ。
申告書の枚数は膨大で、光弘容疑者は「偽の確定申告書の作成のために、仲間がけんしょう炎になった」と知人に明かした。
偽造した確定申告書は、次男が各地の税務署に提出した上で、梨恵容疑者と大祈容疑者がインターネットで申請手続きをしていたとみられる。名義人は受け取った給付金100万円のうち、15万~40万円ほどを「手数料」としてグループに渡していた。
36都道府県の約1780件の個人・法人の名義で不正申請を繰り返した。息子らが各地の税務署に偽の確定申告書などを持ち込む際には「税理士の使いで来た」と言わせ、職員を信用させたという。
しかし、20年7月ごろから、中小企業庁の審査で却下されることが増えた。前年の収入などで同じ金額の書類を使い回したことが原因だったとみられる。
そのころ、光弘容疑者は知人に「中小企業庁の審査がストップしている。いろいろと問題が起きて困っている」と打ち明けている。
同8月には持続化給付金の事務局からの情報提供を受け、警視庁が捜査を開始。光弘容疑者は同10月にインドネシアに出国し、知人に「インドネシアで石油開発事業をしてもうけている」と話していたという。
だが、梨恵容疑者と長男、次男は今年5月30日に詐欺容疑で逮捕され、光弘容疑者はインドネシアの入管当局に不法滞在の疑いで逮捕されたことが今月8日に明らかになった。警視庁は22日に光弘容疑者を移送し、詐欺容疑で逮捕してグループの実態解明を進める。
立件された不正受給額は計32億8500万円
個人事業主らを支援する目的だった持続化給付金は、2020年5月~21年2月に申請を受け付け、計約5・5兆円(約424万件)が支給されたが、全国の警察が今年5月末までに摘発した同給付金の詐欺事件(未遂も含む)は3315件で、立件された不正受給額は計32億8500万円に上る。申請には収入減を示すための確定申告書や売上台帳が必要だったが、迅速な給付を優先してオンライン申請など手続きを簡略化したことから不正受給が相次いだ。
関係者によると、詐欺グループは名義人に取得させた電子申告システム「e―Tax(イータックス)」の利用者識別番号やパスワードを使って虚偽の確定申告を代行していた。申請に必要な売上台帳については、チラシの裏側に「2020年4月 売上高0円」などと書いたものを提出し、支給が認められることもあったという。
また、キャバクラなどの店員は個人事業主の場合と、店と雇用契約を結んでいる場合があるが、雇用契約があっても個人事業主と偽って申請するなどのケースもみられた。【安達恒太郎、林田奈々】