福岡市の大型商業施設で2020年8月、同市の女性(当時21歳)が刺殺された事件で、殺人罪などに問われた住居不定の少年(17)に対する裁判員裁判の第4回公判が12日、福岡地裁(武林仁美裁判長)であった。地裁が実施した少年の心理鑑定を担当した、山梨県立大の西澤哲教授(臨床心理学)が証言に立ち「(少年が育った)日常的な暴力と慢性的なネグレクト(育児放棄)という環境が、事件の背景にある」との見解を示した。
西澤氏は証言で、少年が「(家庭内で)日常的・慢性的に暴力が吹き荒れていた」ほどの虐待を受けたトラウマ(心的外傷)で「共感性や罪悪感が欠如している」と指摘。自分が被害者との感覚があり、少年が「人を殺すことを何とも思わない」などと説明していたことも明かした。
公判では、少年を刑事罰とするか、家裁送致の上で第3種(医療)少年院送致などの保護処分とするかが争点となっている。西澤氏は「刑務所に入れれば、少年が更に被害感情を強める可能性がある」として「医療少年院でトラウマの治療が必要だ」と主張した。
一方、検察側の尋問で西澤氏は、少年を検察官送致(逆送)とした鹿児島家裁決定が「(少年院では)問題性の改善が著しく困難」と指摘した点について「(決定は)間違っている」と反論。少年は少年院の入所歴があるが、西澤氏は「これまでトラウマに対する適切な処置がされていない」と証言した。【平塚雄太】