《旧統一教会会見の緊迫の舞台裏》「黒ずくめのスーツを着込んだ教団関係者が十数人陣取り…」会長が語った“メディア選別”の意図と“安倍家とのつながり”とは

「メディアを分断するのか!」
「大メディアは恥を知れ!」
参院選の投開票から一夜が明けた11日午後、東京都新宿区の京王プラザホテルに怒声が響き渡った。
この日、会場ではある会見が行われようとしていた。
会見の主催者は「宗教法人世界平和統一家庭連合」。
安倍晋三元首相の銃撃事件で、安倍氏を自作の銃で狙撃し、その命を奪った殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者(41)が、犯行の「動機」につながる組織として名指しした宗教法人である。
旧名は「世界基督教統一神霊協会」。
合同結婚式や霊感商法の問題が取りざたされたことも
「統一教会」の名で知られるキリスト教系の新宗教で、1954年に韓国で創設され、64年に日本で宗教法人として認可された。日本では1980年代に、教団側が指定した男女同士が婚姻する「合同結婚式」や、先祖の因縁などの話を用いて高額な物品を売りつける「霊感商法」の問題が取りざたされたこともあるいわくつきの組織だ。
山上容疑者は、奈良県警の調べに「多額の寄付をし、強い恨みがあった。団体と安倍氏が、つながっていると思ったから狙った」などと供述しており、一部メディアでは、その団体がこの旧・統一教会であることが明らかにされていた。
こうした経緯を経て事件発生から3日後の11日、「公式見解を発表する必要がある」との教団の判断で会見開催が決まった。
ただ、教団トップが出席して午後2時から始まった会見は、開始前から紛糾した。
現場にいた記者の1人はこう証言する。
「教団側が、会見の案内を全国紙や通信社、キー局など一部メディアに限定して送り、週刊誌など他の媒体の出席を一切シャットアウトしてしまったのです。このため、会場の入口で入場を求めるメディア側と教団側が『入れろ』『入れない』と押し問答になり、開始前から異様な雰囲気になっていました」
厳戒態勢が敷かれた会場内にも独特の空気が流れていた。
正面の壇上には教団トップの田中富広会長、澤田拓也総務局長が並んだ。
質問する記者を教団関係者が撮影
会場内に「招かれざる客」が紛れこまないように配布されたストラップの着用を求められ、記者やカメラマンの動きに教団関係者が終始目を光らせる。
後列の席には、SPを彷彿させる黒ずくめのスーツを着込んだ教団関係者が十数人陣取り、うち1人が質問する記者にスマートフォンを向け、撮影している様子もうかがえた。
田中会長は冒頭、安倍氏に「心からの哀悼の意を表するとともにご冥福をお祈りする」として黙祷した。
そして、事件について「この度の蛮行は決してあってはならない行為であり、強い憤りを感じている」とし、「宗教指導者の1人としてこのような重大な結果が生じてしまいましたことを大変重く受け止めている」と述べた。
そして、早々と核心部分について触れた。
山上容疑者が教団の信者ではないと強調した上で、「母親は当法人の教会員である。これまでも1カ月に1回程度の頻度で教会の行事に参加してきた」として現在も山上容疑者の母親が信者であると明らかにした。
「高額で献金されてきた方々は、かつてもいらっしゃる」
さらに「報道に際しては、正確、公正、客観的な取り扱いの上、事実に反する内容、憶測に基づいた記事を出すことがないよう、事前に直接取材して情報を得て下さるようにお願いする」とメディアを牽制した。
犯行動機を解明する上での焦点のひとつとなっている「献金問題」については、「現在警察が捜査中であると思われるので、この場での言及は避けさせて頂く」と述べるにとどめたが、その後の質疑では質問が集中した。
田中会長は、記者団からの「多額の寄付を強いられることはあるのか」との問いに対して、「月例献金」「礼拝献金」「無記名献金」などさまざまな献金があるとした上で、「ご本人の意思で献金されるが、額は本人の信条に基づいて献金されていると受け止めている」とあくまで自由意思による献金であると強調した。
また、「何千万もの高額の献金はあるのか」との問いには、「高額で献金されてきた方々は、かつてもいらっしゃる」と認めた。その上で、ノルマを課すなど献金の強要は否定した。
会見でのメディアの取材規制についても質問が飛んだ。
田中会長は、「犯人の動機の解明がなされきれていない中で様々な憶測が飛び交うということは、決して本人、ご家族親族の心中を察すれば、極力控えて頂きたいという思いがある」とした上で、「メディアの一部は当法人の名前を前面に出して報道している」と説明。
教団の存在が報道で明らかになったことで、「数カ所の協会に心ない電話があり、メディアからの心ない言葉、取材攻勢を受けている」と被害を訴え、「それなりに信頼できるメディアのみなさまに来ていただいた」と“選別”の意図を明かした。
山上容疑者が供述の中で述べたとされる「母親の経済的破綻」についても追及があった。
田中会長は「破綻」の事実を認めたものの、「破綻した諸事情は把握していない。現場に問い合わせても当時のことを分かっている者もいない」とした。一方で、山上容疑者の母親の入会時期を「1998年頃」とし、「2002年頃」までに破綻に至ったとの認識を示した。
また、2009年頃から約8年ほど教団から離れた時期もあったとし、2020年前後に再び教団信者らと連絡を取るようになったとも述べた。
安倍家と教団との関わりについて「深く関わってはいない」
11日までには山上容疑者が、安倍氏の祖父・岸信介元首相についても「家庭を壊した団体を日本に招いた」として敵視する新たな供述をしていることが明らかになっている。岸氏は、旧統一教会の創始者である文鮮明氏と交流し、親密な関係を築いていたとされる。教団側が発行する機関紙誌に、文氏が主催するシンポジウムに弁士として出席した際の写真が掲載されたこともある。
岸氏は、教祖の文鮮明氏が1968年に立ち上げた政治団体「国際勝共連合」の日本での普及にも協力したとされ、祖父と孫、世代をまたいだ教団とのつながりに反発を強めた可能性がある。
田中会長は、こうした「安倍家」と教団との関わりについても説明した。
岸氏との関わりについては、「いわゆる私たち法人との関係というよりは、創設者、文鮮明氏の平和運動に広く理解していただいたと認識している」と答えた。その上で、「(教団とは)深く関わってはいない。ただ平和運動で関わっていることはあるかもしれない。その辺は友好団体(UPF)と確認したい」とした。
「お金の動きは一切ない」
安倍氏との関係は「友好団体(UPF)が主催する行事に安倍元首相がメッセージを贈られたことはある」と明かした。
文鮮明氏の妻で現在の教団トップ、韓鶴子氏が主導するという「世界平和運動に関しては賛意を表明してくださっていた」とした上で「会員として登録されたことも顧問になったこともない」と強調した。
自民党や党の所属議員への献金などについては、「お金の動きは一切ない」とした。
約1時間にわたる会見に同席した澤田総務局長からの発言はなく、田中会長がほぼ1人で報道陣とのやり取りを続けた。
会見の最終盤で田中会長は、犯行の背景に教団への恨みなどがあったとされた場合の責任について問われ、「動機の根源にあるとなれば、とても重く受け止めなければいけない」と静かに語った。
平成、令和で一時代を築いた大宰相の命を奪った暗殺者の心の闇の解明はこれからだ。
(安藤 海南男/Webオリジナル(特集班))