突破する日本 安倍晋三氏が高めた「日本の信頼」 欧米メディアにかつて警戒論も…論調に変化、改憲支持も 背景に「地球儀を俯瞰する外交」

米紙ワシントン・ポストは12日付で、「安倍(晋三)氏のレガシーを称える」と題する社説を掲載した。自民党が大勝した10日の参院選の結果は、「憲法を改正して軍隊の合法性を明確にする安倍氏の目標を前進させる」「米国や他の民主主義国は、日本の民主的な軍事力の正当化を支持すべきだ」と書いた。
続いて、「(安倍氏の)提案した改正案は既に現実になっていること(自衛隊の存在)を合法化するだけ」「21世紀の日本は国際社会の信頼できる一員だ」とも述べ、「安倍氏はいなくなった。彼が日本と世界に与えた影響を忘れてはならない」と結んでいる。
同紙はリベラルな論調で知られ、中韓の反発を招いた安倍氏の歴史認識を批判したこともある。その同紙が日本への信頼を示し、自衛隊を憲法に明記する安倍氏の改憲案に賛意を示したうえで、米国や他の民主主義国へ支持を求めた。安倍氏が戦後70年の首相談話などで日本への警戒心を解いてきたことがもたらした論調の変化だ。
日本にはまだ、憲法改正や防衛費の増額に否定的な政党やメディアもある。
参院選でも、安倍氏も主張した防衛費をGDP(国内総生産)比2%以上に増額する案について、立憲民主党は「総額ありきではなく、メリハリのある防衛予算」と批判的。共産党は「軍事費2倍化を許さない」とし、社民党は「ウクライナ情勢に便乗した防衛力大幅増強の動きに反対」とした。
米紙が日本を「国際社会の信頼できる一員」とする一方で、これらの政党はありもしない軍事大国化を懸念し、日本への不信感を示している。
仏誌ルポワンは6月、ロシアのウクライナ侵攻による世界の変化について、「日独という(第2次世界大戦の)敗戦国の再武装」に象徴されると論じた。ドイツはウクライナ侵攻後、国防費をGDP比2%に決め、軍備増強に動いている。日独が国防費をGDP比2%にすれば、日本は米中に次いで3位、ドイツは4位の規模になり、世界の軍事地図を変える。
にもかかわらず、ルポワンは「案じることは全くない。中国や北朝鮮が地域を火薬庫に変える中、強い日本はアジアの安定につながる」と書いている。
欧州メディアは、かつては日本への警戒論を示したが、今は警戒論は全く聞こえてこず、むしろ「強い日本」を求めるようになっている。
これらはウクライナ侵攻だけによる変化ではない。基礎には安倍氏が展開した「地球儀を俯瞰する外交」によって形成された日本への信頼がある。安倍氏が残した称えられるべき「レガシー」だ。
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員も歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。