保育園、病院…「ギリギリの状態」 職員感染拡大で綱渡りの日々

新型コロナウイルスの感染「第7波」による感染者や濃厚接触者の急増で、医療機関や公共交通機関など市民生活を支える現場の業務に支障が出ている。政府は社会経済活動を維持するため濃厚接触者の待機期間を短縮したが、感染拡大のスピードが速く、狙い通りの効果が出るかは見通せない。
「連日陽性者が出ている。これ以上増えたら園の運営自体が難しくなる」。横浜市の認可保育園「三ツ境たんぽぽ保育園」で保育士として働く芳賀有美さん(49)はため息をつく。
園では21日に職員の感染者が出て以降、27日までに約30人いる職員のうち、3分の1に当たる10人が感染した。本来なら0~5歳の6クラスにはそれぞれ担任がいるが、感染者が多いため別のクラスの担任が応援に入るなどしてしのいでいる。
感染は管理職にも広がっており、保護者や近隣保育園からの電話対応も現場の職員が担う。階段の手すりやおもちゃなど隅から隅まで園内消毒も毎日しており、多大な業務量で現場は逼迫(ひっぱく)している。芳賀さんは「残った職員でいつまで頑張っていけるのか。不安で仕方がない」と話す。
連日、全国で20万人を超える新規感染者が確認され、市民生活を支える現場では人員確保が難しくなっている。従業員らの感染で、全国の郵便局のうち146局が業務を休止(29日時点)。東京都や神奈川県で運行する小田急バスでは路線バスの一部で運休や減便を余儀なくされた。
JR九州は25日時点で出社できない乗務員が38人に上り、27日から10日間で特急列車計120本を運休すると発表した。コロナ下で人繰りを理由にした運休は初めてという。出社できないのは乗務員全体(約1900人)の2%程度だが、社員の感染が当面続くことを想定し、運休を決めた。
人手不足は医療機関でも深刻だ。
「看護師だけでなく医師のシフトにも影響が出ている。ギリギリの状態だ」
約600人のスタッフが勤務し、コロナ感染者の治療も担う福岡記念病院(福岡市早良区)の上野高史院長(66)はこう訴える。同病院では7月上旬から職員の感染者や濃厚接触者が急増し、下旬には職員全体の5%にあたる約30人が欠勤。医療体制を維持するため、日曜日と祝日の発熱外来を一時的に休止した。今後、欠勤者が増えれば、手術回数を減らし、救急患者の受け入れも止めざるをえないという。
政府は社会経済活動を維持するため、第7波では行動制限などはせず、22日に濃厚接触者が自宅などで待機する期間をそれまでの原則7日間から5日間に短縮した。必要な検査で陰性を確認できれば、最短3日目で待機を解除するようにしたが、上野院長は「感染者の療養期間も短くしなければ現場が回らなくなる」と指摘する。
一方、千葉大病院(千葉市中央区)は20日以降、医療従事者や一般職員が濃厚接触者になった場合でも自宅待機とせず、出勤前の抗原検査で陰性なら勤務できる対応に改めた。
約3000人が働く同病院では、第6波の際は感染者や濃厚接触者となって100人以上が欠勤し、医療体制に支障が出た。第7波でも欠勤者が数十人規模に増え始めたため、人材を確保して夏休みを取得させるためにも、医療従事者に対する政府の特例に従うことにした。厚生労働省は昨年8月から、医療従事者については濃厚接触者になっても、無症状で毎日検査して陰性であれば勤務を認めている。
同病院では職員出入り口の外に検査場所を設け、多い日では出勤前に10人ほどが検査を受けるという。感染制御部の猪狩英俊部長は「医療の提供体制を縮小させないための取り組みで、一定の成果を出している。感染対策をしっかりし、安全な医療を提供していきたい」とコメントした。【遠藤龍、柴田智弘、城島勇人】