要人警護 警察庁が事前チェック強化へ SP増員・研修拡充も検討

安倍晋三元首相(67)が奈良市で街頭演説中に銃撃されて死亡した事件を受け、警察庁は、都道府県警が作成する要人の警護計画について内容をチェックする対象を広げるなど同庁の関与を強化する方針を固めた。警護に関する規則を定めた「警護要則」を約30年ぶりに見直すことも視野に、警視庁のSP(セキュリティーポリス)を増員するほか全国の警護員の研修拡充なども検討し、今月中に再発防止策をまとめる。事件は8日で発生から1カ月を迎えた。
警察関係者によると、1992年に自民党の金丸信副総裁(当時)が演説中に右翼団体構成員から銃撃された事件を受け、警察庁は要人警護のあり方を見直した。94年に改正した警護要則では、要人が複数の都道府県を移動する場合、同行する警護員が管轄外でも活動できることなどを盛り込んでいる。
警察庁は、首相や国賓ら「身辺に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者」を警護対象者として指定するが、その関与は限定的だ。警護計画は都道府県警が作成し、安倍氏のような首相経験者でも原則として警察庁に報告する義務はない。
各国首脳が参加する国際会議などでは警察庁が一定の関与をするものの、広域にわたる警護を除き、警護要則などに警察庁の役割が具体的に記載されているわけではないという。
一方、SPがついている元首相や国会議員らが地方で演説する際、警視庁は「広域警護連絡表」を警察庁に送ることになっている。今回も事件前日に警察庁に連絡表は届いていた。ただ、内容は演説場所や日時、派遣するSPの氏名などに限られ、警察庁のチェック機能は働かなかった。
膨大な計画 警察庁幹部「基準必要」
事件を受け、警察庁は地元警察が実施する警備への関与を強化する方針だが、街頭演説を巡る警護計画は膨大な量で、すべてをチェックするのは現実的ではない。警察庁幹部は「何らかの基準が必要」と強調しており、対象となる要人への「脅威評価」をもとに、警察庁の関与に幅を持たせることなどが検討されている。
さらに、全国の警察官の研修機会の拡充も課題に挙がる。
要人警護の機会が多い警視庁では毎年、道府県警から20人程度を受け入れ、1年間にわたってSPに同行させるなどして警護のノウハウを伝えている。こうした機会を多くの警察官に確保しようと、道府県警から警視庁に派遣する人員を増やすことを検討している。200人前後とされる警視庁のSPの増員についても調整が進められている。【松本惇、斎藤文太郎】