【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
岸田文雄首相が新型コロナにかかった。私の知人の医者は、「日本でコロナに絶対かかってはいけない人間がいるとすれば、それは岸田だ。それがゴルフや街中に出てコロナにかかった。彼はバカだ」と吐き捨てた。自分を律することができない人間にリーダーの資格はない。
ところで、統一教会問題に隠れてしまった元電通専務、高橋治之容疑者の東京五輪を舞台にした贈収賄事件。闇の深さでは統一教会といい勝負だ。紳士服大手のAOKIから便宜を図ってほしいといわれ、総額5100万円もらったことが捜査の対象だが、これは氷山の一角。
もともと五輪招致をめぐり、高橋は旧知のIOC委員にロビー活動を行うためと称して、招致委員会から8億9000万円の活動費を受け取っている。フランスの捜査当局は、この金は「票を取りまとめるための賄賂」だったとみて捜査を進めている。
さらに、菅官房長官(当時)が旧知の会社会長に、IOC委員を買収するための資金を援助してくれと頼んだという話もある。菅が指定した財団はブラックボックスになっていて、代表理事は大会組織委員会会長を務めた森喜朗である。
東京に五輪を持ってくるためにIOC委員たちに札束をばらまき、組織委員会ができると、高橋や森喜朗をはじめ政治家や電通が五輪利権を食い漁っていた「腐敗の構図」が見えてくる。
参院選が終わってから高橋を逮捕するなど、東京地検の弱腰が気になるが、徹底的に捜査すれば、森や自民党議員だけではなく、安倍元首相の名も浮上してくるかもしれない。もちろん、東京五輪を実質的に取り仕切っていた“政商”電通も無傷ではいられないはずである。
私が講談社に入ったのは1970年。当時マスコミには菊(天皇)と鶴(創価学会)と電通タブーがあるといわれていた。月刊誌のプラン会議で私は何度も「電通のタブーを斬る」的な企画を出したが、編集長は一顧だにしなかった。広告担当の連中は、自ら広告取りに歩かず、電通の人間と飲んで「広告をお願いします」と揉み手をするのが仕事だった。新聞やテレビも同様だったのだろう。
記憶をたどってみても、新聞、テレビにはできないタブーを追及するのが役割だと公言している週刊誌だが、電通社員のセクハラや麻薬所持などの不祥事についての報道は山ほどあったが、電通の危険な体質に真っ向から切り込んだ特集は思い浮かばない。
現在、菊と鶴はタブーではなくなったが、電通は今や単なる広告代理店ではない。歴代政権の中枢に食い込み、官僚たちをあごで使うようになった。安倍元首相の国葬も電通が取り仕切るとネットで騒がれた。もし、事実ならば、まさに「電通は国家なり」の態である。
組織委は東京五輪の経費は6404億円と発表したが、公益法人で情報公開制度の対象ではないから、経費の詳細については開示しないという。昨年6月にはJOCの経理部長だった人間が自殺している。長野五輪では、招致委員会の会計帳簿を燃やしてしまった。今回を含めて、よほど不都合なことがあったとみて間違いない。
このところ統一教会には強腰のメディアが、電通が絡むと腰が引けているように見える。この事件をきっかけに、これまで電通がやってきたことを丸裸にする。そのためにメディアは自分たちの“恥部”もさらす覚悟をせよ。(文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)