「一過性」で終わらなかった統一教会問題 岸田官邸は“身体検査”を軽視したツケを腹いっぱい味わう

よく考えれば、一国の総理大臣、それも憲政史上最長の首相在任期間を誇った安倍晋三さんが、選挙期間中に公衆の面前で銃殺されるという最大級の事件だったわけですよ。その背後にあったものや、戦後日本政治裏面史的な経緯も考えれば、いわゆる統一教会問題が1か月やそこらで収まり、無難に国葬やって終わり、とはならないのも当然の流れだったと思うんですよね。
消極的な「岸田さんでいいんじゃない」支持層は不支持へ
事態を甘く見たわけではないのでしょうが、決別宣言をして、1か月もすれば事態は沈静化するだろうという現総理・岸田文雄さんと側近の判断が外れてしまった結果、どの世論調査を見ても岸田政権に対する支持率は大きく低下してしまいました。
何よりも痛かったのは、投票行動分析のもとになる社会調査をやる私たちでさえ「(国民からは一見何もしていないように見える)岸田政権の支持率がなぜ高止まりしてきたのかよく分からない」と感じていたところへ、今回の統一教会問題が出てきてしまいましたので、いわば消極的に「岸田さんでいいんじゃないの」と思っていた岸田支持基盤であった中高年女性に岸田不支持の「理由」ができてしまったことです。
日本の隣国でもある、ロシアによるウクライナ侵略の歴史的大事件がワイドショーで連日取り上げられて、やや報道疲れが見えたところで参院選を挟んで安倍さん暗殺。そして、その安倍さんと所縁の深かった統一教会問題の再燃、さらには自民党有力議員・閣僚との関係が繰り返し報じられて支持率が持つはずもありません。
岸田文雄さんとしては、統一教会との関係を清算すると宣言し、統一教会とつながりのある人物の入閣を見送ることで問題の幕引きを図ろうとしたことが、かえって「あいつはこんな関係があった」「こいつは祝電だけじゃなくイベントで来賓として喋っていた」というツッコミが後からバラバラと出てきたのですから、大変なことです。自民党全体として、毅然として統一教会との関係を断絶するという判断までは踏み込まなかったのは、宗教勢力と政治とのもちつもたれつの関係について、全体像を知ってどこまで切って良いのかという目分量をいままで党として誰も検討してこなかったことのツケとも言えます。
香ばしい話を抱いた政治家を放置“身体検査”を軽視したツケ
さらには、岸田文雄さんが熊本岸田会なる総裁選専用団体を立ち上げるにあたり、統一教会と極めて関係の深い企業人や地元財界の人物がそのトップに座っていた話まで週刊文春で報じられました。あくまで九州財界や教育界の「やらかし」であって、間接的な関係に過ぎない岸田文雄さんの責に帰さないものだから大丈夫だと逃げ切れると判断して、静観をしたのが裏目に出て報じられてしまったため、統一教会外しの路線が後手に回った格好です。
しかしながら、九州財界や大学において「日韓トンネル構想」が九州経済の起爆剤になると本気で考えている人たちが、この元ネタは統一教会だったのだと知らずに担いだ経緯は政府有識者たちも知るところでした。そういう香ばしい話を抱いたままの政治家が総理大臣や政務三役(大臣や、副大臣、政務官)になるにあたり、スキャンダルがないかどうか、もしも出火したら逃げ切れそうかどうかを調べる通称「身体検査」において、繰り返し指摘をされてきたところでもあります。
役割を終えても生き残った、統一教会と勝共連合
逆に言えば、いままで清和会など自民党の保守傍流と呼ばれていた何でもありの政治姿勢が、1960年代からの全共闘時代・安保闘争でテロや殺人、暴行を繰り返してきた共産勢力の赤化に対抗するべく統一教会と手を組んで勝共連合を作り、その暗躍を黙認してきました。左翼運動にヤクザや宗教団体信徒を送り込んで潰してきたアメリカ・ソ連の冷戦構造の最先端で頑張ってきた装置が、自民党と宗教団体の相互補完を設えてきた側面はあります。
敗戦後すぐに始まった米ソ冷戦の最前線にあった日本が、民主主義を掲げる西側陣営としてこの旧秩序に順応するための構造を作ったまでは良かったものの、時を経て、役割を終えたはずでした。しかしながら、その後も統一教会も勝共連合も組織の生き残りのためにあらゆる画策をし、自民党政治に食い込んだ結果、対北朝鮮外交の窓口となり、また、政治資金の清廉化のプロセスの中で適法に重労働な選挙ボランティアを無償で出してくれて、落選しても変わらず献身的に支援する人たちが宗教団体だったよという話にもなります。
〈電撃訪朝から20年〉北朝鮮を訪れた小泉純一郎が「金正日には『もう会わなくていい』と…」日朝平壌宣言の“知られざる裏側” https://bunshun.jp/articles/-/53782
いまなお数万人規模の“信者”がいる旧統一教会
そして、ここに来て統一教会がマスコミからの繰り返されるバッシングに危機感を覚えたのか、統一教会と所縁のあったメディアを公開するという話をするようになってきました。先には、統一教会批判の急先鋒とも言える「ミヤネ屋」を抱える日本テレビ系が、その看板番組でもある「24時間テレビ」の制作にあたって統一教会信者と思われる人物の関与を統一教会が公式に明らかにしたのは驚くべきことです。本当にこれが信仰であるならば、信仰を理由に解雇することは後述の通り違憲の疑いもある一方、追い詰められた統一教会がこのような反撃を平気でしてしまう人たちなのだという証明でもまたあるのです。
もちろん、個人的には統一教会問題は、とにかく手を切ることと再発を防止することに尽力するべきだと考えていますので、統一教会の自爆テロ的なマスコミとの関わり明示については「やっちゃえ」とも思うのですが、本当に問題となるのは宗教団体を隠れ蓑にした反社会的組織である統一教会が、本気で社会的な関係開陳をしたらどうなってしまうのかということです。
統一教会を批判する人が忘れがちなのは、確かに統一教会は日本人の家庭を壊し、日本人の財産、それも確信犯的に韓国へ年間200億円から500億円近くという途方もない金額を送金し続けてきた紛れもない悪の組織であることは言うまでもありません。
宗教としては成立してしまっているもどかしさ
しかしながら、その数がずっと減り続けてきたとはいえ、いまなお数万人規模の信者はいる統一教会は、反社会的行為が問題になるなかで宗教団体を隠れ蓑としているわけですが、曲がりなりにも宗教としては成立してしまっているのが現状です。
これに対して、政府が例えば国政政治家や地方議員、秘書など政治産業に関わる人たちや、霞が関の官公庁に勤めている官僚の皆さんに対して、国家や政党の権限としてこれを「調査」し、もしも信者であったならば処分も含めて検討するのだとなれば、憲法第20条に明記されている信教の自由を真正面から侵害することになります。また、憲法第14条にもある通り「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」ということで、実にデリケートなことになりかねません。
仮にこのまま統一教会が「社会的に問題だ」というレベルの議論で話題になり続けていたとして、特定の社員や官僚、地方議員に対し、その統一教会の信者だからといって一方的に処分したり役職から外したりした場合に、信教が理由で差別をされたと訴訟を起こされる(それも、会社や役所など組織側にとって不利な形で)ことも想定できます。信者もまた被害者の側面があるだけでなく、国民が信教などを理由に差別されない権利を侵害することは相応に重く、それは統一教会がそれだけ悪質なのだということの裏返しでもあります。
さらに、統一教会追及側が往々にして忘れがちなのは、迫害されたマジもんの信者が、その信仰を隠して潜伏する危険性です。単純な話、地方議員や中央省庁の官僚に問題のある宗教の信者が知らないまま温存されてしまいかねません。かつても、検察庁の検事や、大物医師、ある県の地方議会のドンとされる土着政治家が、実は過去に故・文鮮明さんが設立に深く関与した原理研究会の正会員として長らく在籍していて問題となった件もありましたが、その経歴や信仰を隠して潜伏をしていたため、外部から指摘されるまで明るみに出ることはありませんでした。
そのぐらい日本政治や行政は、カウンターであるマスコミも含めて統一教会に汚染されていたのだ、だから追放するべきだというのは総論として分かるのですが、実際には相手も人間であり、上手く対処しないと長期にわたって禍根を残す恐れもないとは言えないのが困ったところだなあと思うわけですね。
実際に、「家族ぐるみで信者だけどいま名乗り出られないので困っている」という統一教会の現役信者からタレコミや相談が舞い込むごとに、相談を受けるはずのこちらが問題の重さゆえに悩んでしまうことさえあるのです。そしてそれが、本来の「身体検査」の神髄です。白とも黒とも言えない、それそのものは(摘発されて起訴され有罪判決を受けたという)犯罪ではないけど、その問題を認識し、その人が仮に組織に入り込んだり、政務三役に就任することで問題になりそうかを検証する仕組みの重要さであるといっても過言ではありません。
解決するには、宗教行為と反社会的行為との切り分けが必須
これを解決するには、まずは何よりも(1)統一教会および関連組織を宗教法人法に基づいて裁判所からの解散命令の対象とすること、(2)宗教事業の中に含まれている経済行為(寄付や献金と、それによる韓国への送金や日本国内での不動産売買・賃貸収入など)を経済・営利事業と認め、これへの監査と徴税を行うこと、(3)統一教会の霊感商法や寄付・結婚強要など反社会的行為については消費者問題など民事で終わらせず、適切に捜査を行って刑事罰を与え、宗教行為と反社会的行為とを切り分けて対処を行うこと、(4)一連の事項を岸田文雄政権の主導のもと不退転の決意で断行し、今後は統一教会との一切のかかわりを断ち、類似の事案に対する再発防止を宣言し実行することに尽きると思います。
宗教の社会問題として矮小化がされがちですが、実際に起きていたことは日本政治裏面史において、戦後、一貫して宗教団体を隠れ蓑にした外国(韓国)による政界汚染であり、歴史的なスパイ事案であったと認識することが大事ではないかとも思います。殺害された一国の総理大臣が、実はその祖父からの血筋と政治的ポジションゆえに外国の影響下にある宗教団体を長年にわたり政治の中枢に引き入れてきていたのだというのは暗澹たる事態であったことはよく知っておくべきでしょう。
必要なことは、戦後自民党政治がついに決別できる機会を得たのだという認識であって、いままでの経緯は別として、これからの日本の未来を考えてしっかりと決別する重大な判断を岸田文雄政権が下すことに他ならないでしょう。
頼むぜキッシー、マジでよろしく。
(山本 一郎)