政府は7日から新型コロナウイルス対応の水際対策で、海外からの入国条件を緩和する。出国前検査の義務付けなど、これまでは世界主要7カ国で最も厳しい水準で、海外在留邦人や訪日観光客には大きな障壁となっていた。今回の条件緩和では、検査での陰性証明書の提示をワクチン3回接種に代えて免除することなどが示され、ウィズコロナへの第一歩と評価の声が上がる一方、専門家からは政府の判断の遅れも指摘された。
現状、政府の水際対策では、日本人帰国者を含む全ての入国者に対し、出国前72時間以内のPCRなどの検査を義務付け、陰性証明書の提示を求めている。
この「72時間以内ルール」のため、海外から帰国できなくなった人は少なくない。
8月半ばに家族5人でスイスに旅行した神奈川県の会社経営の男性(42)も、〝帰国難民〟の苦労を経験した一人だ。男性は3回目のワクチン接種も済ませ、体調に変化はなかったが、帰国予定日前の検査で陽性判定に。「家族が順番に感染した場合、いつになったら帰国できるのか…」。悩んだ末、陰性だった子供を先に帰国させた。
男性はその後、現地の病院でコロナからの回復を証明する診断書を受け取り、日本大使館で陰性証明書に代わる「領事レター」を申請。予定より約1週間遅れて帰国し、「現地の病院や大使館の情報を調べることも大変だった」と話した。
関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「ここまで厳格な入国規制を採る国は、世界でも太平洋島嶼(とうしょ)国の小さな島国や、中国など数えるほど」と言い、国民の間で広がる「ゼロリスク信仰」の表れだと指摘する。勝田教授によると、すでに欧州などでは検査所の数も少なく、パリでは「ほとんど日本人のためにPCR検査所があるような状況だ」という。
他方で、海外からの訪日観光客にとっても、出国前検査は高いハードルとなっている。
旅行大手のJTBの担当者は、72時間以内の検査が難航するケースは多く、ツアー参加者が集まらないと吐露する。今度の入国条件の緩和について「検査の廃止は旅行客の心情にいい影響をもたらすだろう」と話す。
水際対策を巡り、政府は今後、帰国者の報告強化で対応する。9月2日、感染疑いの人に自宅などでの待機を指示し、報告に応じない場合には罰則を設ける方針を決定した。
また、1日当たりの入国者の上限についても7日以降、2万人から5万人に引き上げられる。ただ、コロナ禍前の令和元年の1日平均入国者数の約14万人には程遠い水準にとどまった。
航空大手の日本航空(JAL)の担当者は、国際線の需要増加への「追い風」と期待感を示す一方で、個人旅行の解禁や査証(ビザ)なしでの外国人観光客の入国など、さらなる条件緩和を望む。
医療政策に詳しい南山大の山岸敬和教授(公共政策)は、政府の判断を「遅すぎたという印象」と指摘。山岸教授は、水際対策は各国の感染状況や医療体制、経済力や地理的要素などを踏まえて決めるべきだとしながらも、「ビジネスや留学、旅行先として敬遠される可能性を高めてしまった。日本の『ソフトパワー』にネガティブな影響を与えた」とこれまでの政府の対応を分析した。(末崎慎太郎)