北朝鮮が日本人の拉致を認めて謝罪した「日朝首脳会談」(2002年9月17日)から、間もなく20年が経過する。5人の拉致被害者が日本へ帰還を果たしたが、北朝鮮は残る被害者について「死亡」「未入境」などと虚偽の主張を繰り返し、全面解決を求める日本の要求に応じていない。事態が膠着(こうちゃく)するなか、被害者や家族は老いていく。岸田文雄政権は局面を打開できるのか。 (報道部・中村昌史)
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「言いようのない、いらだちを強く感じる。むなしく、地獄の苦しみを味わっている」
横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(86)は焦りと怒りをこう吐露した。
02年の日朝首脳会談では、小泉純一郎首相と、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が会談。北朝鮮は被害者5人の生存は認めたが、めぐみさんを含め「8人の被害者は死亡」と主張した。日本世論は猛反発し、北朝鮮が期待した日朝国交正常化、経済支援は頓挫した。
安倍晋三政権下では進展の兆しがあった。
16年に当選したドナルド・トランプ米大統領と信頼関係を築いた安倍氏は、日米朝の外交的枠組みに「解決すべき問題」として組み込むことに成功した。トランプ氏は17年、国連演説で拉致問題を指弾したうえ、金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談でも解決を提起した。
「非核化が主題の米朝交渉をにらみつつ、拉致解決を条件に日朝国交正常化と経済支援の協議に北朝鮮を引き込む」―。
この機を見て安倍氏は「前提条件を付けず、日朝首脳会談を目指す」意向を表明した。だが、北朝鮮は明確に反応せず、ベトナムで行われた米朝首脳会談は決裂した。
打つ手はないのか。
ジョー・バイデン政権は「朝鮮半島の非核化」を念頭に置く。バイデン大統領も拉致解決への意志を示し、「即時解決への米国のコミットメント」を表明している。
岸田首相も、安倍氏が描いたトップ会談戦略を継承する。日本政府高官は「最高指導者・正日氏の決裁は絶対だ。『訂正』は継承者の正恩氏にしかできない。局面打開には首脳会談しかない」と強調する。
ただ、クリアすべき壁は高い。
政府関係者は「被害者の全員帰国を譲れない日本に対し、北朝鮮の関心事は米国に対抗する核・ミサイル戦力の強化だ。日朝の方向性はかみ合っていない」と語る。
被害者家族は病や高齢で相次いで死去し、親世代で残るのは早紀江さんと、有本恵子さん(62)=同(23)=の父、明弘さん(94)の2人だけになった。被害者家族からは「岸田政権は拉致問題への発信が乏しいのではないか」という不安の声がもれる。
日朝関係筋は「弱腰では北朝鮮は決して交渉に応じない。すべての被害者に祖国の土を踏ませる断固たる決意が必要だ。日本政府は、各国の北朝鮮大使館に接触を図るなど働きかけをしているようだが、成果は芳しくないようだ。与野党が国会で具体策を議論すべきではないか」と語った。