選挙の大物応援演説どうなる? 菅前首相奈良入りは超厳戒…「違和感」の声も

安倍晋三元首相が演説中に銃撃され死亡した事件は、首相経験者ら大物弁士の街頭活動に暗い影を落とした。事件では安易に前例を踏襲した警護計画の不備が露呈。要人については計画の事前チェックなど警察庁が関与を強めることになったが、選挙が絡むと、情勢次第でスケジュールが変わることが少なくない。安全策をとればとるほど街頭に出るのが難しくなることも予測され、政党関係者からは「今後の選挙活動は屋内中心にならざるを得ないかも」と懸念も出ている。
超厳戒態勢
今月7日午後、奈良市の銃撃現場では、数珠を手に安倍氏の冥福を祈る菅義偉(すが・よしひで)前首相の姿があった。
静かにたたずむ菅氏とは対照的に、その前後左右には複数の警護員が「人間の壁」をつくるように配置され、見るからに厳戒態勢が敷かれていた。
制服警察官は、菅氏の到着前から「見せる警備」で周辺を警戒。近くの立体駐車場の屋上では、長距離狙撃を防ぐためか、警護員らしき男性が目を光らせていた。現場を見下ろす近鉄大和西大寺駅通路には、ビデオを回す警察官の姿も。菅氏の周囲360度をフォローするアリの子一匹逃さぬような警備網-。いずれも事件当時は見られなかった光景だ。
何度もすり合わせ
菅氏の奈良入りは、県内選出の自民党衆院議員が主催する講演会に出席するため。事務所関係者によると菅氏側から銃撃現場訪問の希望が伝えられたのは「少なくともお盆より前」のことだった。「絶対に何も起こってはいけない」(奈良県警幹部)。事件に揺れる県警内に、さらなる緊張が走ったという。
警察庁は、事件当時の警護に関する検証報告を8月25日に発表。安倍氏の背後(南側)から銃撃を許した主因として、計画段階から南方向の警戒がまったく考慮されず、人員配置もなされなかったことを挙げた。この失敗を受け、都道府県警が立案した警護警備計画を警察庁がチェックする仕組みが導入された。
関係者によると、菅氏の現場訪問に際し、主催者側と警察との事前打ち合わせは対面で3回ほど行われ、さらに電話でのやり取りも頻繁にあった。警察からは「現場で歩く距離をできるだけ短く」などと細かい指示があったという。8月末には、警察官と事務所関係者が現場に集合し、当日の菅氏の動きなどを入念に確認した。
菅氏は銃撃現場を訪れた後、講演会場の奈良市のホテルへ向かったが、ホテル内での菅氏の動きについても、分刻みで事前にすり合わせがなされたという。県警幹部は「警護計画は警察庁に何回か変更を指示された。万全な警護態勢と主催者側の意向を両立するのが難しかった」と明かす。
別の県警幹部は、国政選挙で大物政治家の街頭活動が重なった場合を懸念。「菅前首相の警護には、相当な数の警察官が動員された。選挙中だと、同じ日に大物弁士が何人も来県するときがある。人員態勢を含めて考えないといけない」と硬い表情で語った。
選挙スタイルも変化
銃撃現場での安倍氏の演説日程が決まったのは事件前日だった。これを受け自民奈良県連は党本部に対し、閣僚や首相経験者の応援演説については2日前までに日程を決定してもらうよう要望した。県連の荻田義雄幹事長は「警護計画をしっかり立てるためには、最低2日間ぐらいは必要だ。党本部主導で一本化してほしい」と話す。
その上で荻田氏は選挙活動のスタイルが今後変化する可能性があると推測した。「有権者と近い距離で政策や人間性を発信するのがこれまでの選挙だったが、警護への協力も考えると、今後は街頭よりも屋内の集会が多くなるかもしれない」
他方、自民大阪府連の関係者によると、警護対象者が来阪する場合、遅くとも5日前には党本部から連絡があるのが通例という。「今回の事件のように日程が前日に決まるのは非常に特異なケース」とみる一方、「安倍さんクラスの人気政治家なら、直前に来阪予定が入っても受けざるを得ない。その際は過去に演説したことのある場所などを用意するしかない」と打ち明けた。
ある野党議員は菅氏の警護を振り返り「今回は事件直後の来県なのであそこまで警護するのは分かるが、通常の選挙でやるのは現実的ではない。有権者にも圧迫感があるのでないか」と違和感を口にした。